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ショートショート8月~

お節介

作者: たかさば

「やあやあ、皆さん、こんにちは。」

「「「「こんにちは。」」」」


「どうです、今どきの人間たちの様子は。」

「ずいぶん頑張っているものもいるが…なんとなく全体的に元気がないというか。」


「堂々とした人間の影に入っている人がずいぶんいますね。」

「もっと日の当たるところに自身を伸ばせばいいのに、惜しい事だ。」


「完全に芽の出ている人の下敷きになってる人もいるな。」

「下敷きになりつつも、芽を支えていることを受け入れているようですよ。」


「自分の芽が出せない状況を他人のために受け入れているのか…。」

「それは伸びている芽の邪魔をしてはいけないという…優しさ?」


「このところの人間は、ずいぶんやさしい人が増えたからなあ。」

「たしかに、競うことばかりたたき込んでいた時代とは違うね。」


「いつでしたっけ?徒競争でみんな手をつないで仲良くゴールってのが始まったのは。」

「ああ、あのあたりから優しくなったというか、闘争心がない人が増えてきたかもしれませんなあ。」


「みんな手をつないで、皆仲間、みんな一緒という考え方か。」

「優劣を同じ人間で争う必要はないと考えたのだろうが…。」


「人というのは、共に競い合ってより高みを目指す者だったはずですがね。」

「競うことが、争う事だと認識されるようになったみたいだよ。」


「その割には…他人と比べることをやめないんだねえ。」

「闘争心がないくせに人が気になってしまうようですよ。」


「争わないんだったら人を気にすることもないと思うんですけどね。」

「争わずとも、自分が周りになじめていないのが許せないという人が多いのでは?」


「なじむ?目立ちたくないと思うという事かね。」

「個人が暮らすこの世の中で、周りの人たちの中に埋もれたいと願うわけです。」


「埋もれているけれど自分だけは確固たる自分があると思っている者もいるな。」

「なんだそれは?なんで堂々と個を出さないんだ。」


「今は埋もれているけれど、いざとなったら自分はすごいところを見せつけることができると。」

「普段埋もれることに甘んじてていざとなったら芽をスッと出せるというのかね。」


「できもしないことができると思い込みがちなのが人間なのさ。」

「初めから芽を出しておけばいいものを。」


「人というのは、自分と違うタイプの人間を見ると不安に思ってしまうものだから、出せないのでは。」

「全員が一斉に芽を出せば出せるという事か、ただ一人芽が出ていなくては目立つから。」


「そうすると今度は芽の出ていないものを皆でつつき始めるという訳か…。」

「自分と似たような考えを持つ人と共に、違うタイプの人間を攻めがちなんです。」


「つまり、なじんでいないものを排除しようとするという事かい。」

「排除するつもりはないのかもしれないが…結果的にそうなっているのでは?」


「…争いごとをしなくなったわりには、攻撃性が高いな。」

「競い合うことをしなくなった分、争わずともいい部分に力が入っているかもしれない。」


「自分を隠して気に入らないものを攻撃する事に夢中になっているものも多いらしい。」

「ああ、堂々と攻撃したら堂々と反撃されてしまうからでしょうね。」


「なんとも不憫なことだ。」

「なんとも救いようのないことだ。」


「そこでだ、私は施しというものをしてみようと思うのだよ。」

「具体的には何を施すというんだい、無駄になるんじゃないのかね。」


「今必要なのは、絶対的な悪だ、一丸となって倒さなければならない存在。」

「そうだな、皆でかからねば太刀打ちできないような存在が現れたなら、さすがに協力するだろう。」


「今まで無関心、もしくは排除傾向のあったものが協力しますかね?」

「隣の少しばかり自分と違う存在など見向きもしなくなるほどの脅威を用意すればいい。」


「では、最新式の夜叉を投入しましょう。」

「これで人間界の流れが変わればいいのだが。」



「フウム…人は余計に混乱しているようですよ。」

「夜叉に陶酔している人が多いようだ…世の中をぶち壊す様子を見て崇めているぞ。」


「気に入らない世の中だから、すべて壊してほしかったと心底安堵している者がわりとおるな。」

「なぜそこで自ら作ろうとしないのだ。破壊を望むのだ。」


「団結をのぞむ先駆者が攻撃されています。」

「なぜ率いるものを攻撃するのだ。」


「同じじゃないからでしょうかね…。」

「この場合の同じというのは、恐怖し、震え、悪を憎みつつ、何もしないという事か。」


「いや、そこに何かをするものを攻撃するという行動が入りますね。」

「目の前に脅威があるというのに、横の仲間を攻撃するのか…。」


「そもそも…仲間という意識は持っていないのでは?」

「所詮自分以外の者はすべて他人、そういう考えが目立ちますね。」


「同じ人間なのに、そのように考えるのか。」

「我々鬼でさえいざというときには団結するというのに、なんとも人というものは…。」

「まさに鬼ですね、血も涙もない、ははは!!」


「我々はもともとそういうものを持たないではないか。」

「持っているものが流さないのとはわけが違うぞ!!」


「では、血も涙もない人間を鬼として迎え入れてみるのはどうだろうか。」

「なるほど、それはよい着想だ。我々だけでは限界もある。」



「一番血も涙もないことをほざいていた人間を連れてきたのだが。」

「なんでこいつはこんなに弱気なんだ。」


「なぜ人間界で流さなかった涙を流すのだ。」

「なぜ人間界に帰りたいと願うのだ。」


「なぜ勝手につぶれて消えてしまったのだ。」

「自分以下の人間にならば強気でいられるが鬼の前になると委縮してしまったようです。」


「では、血も涙もないことをほざく人間を複数連れて来てはどうか。」



「連れてきたが互に争いを始めてしまったではないか。」


「誰が一番鬼にふさわしいかもめていますね。」

「ずいぶん血が流れているではないか。」


「結局一人しか残らなかったな。」

「血まみれの人間が涙を流しているじゃないか。」


「帰りたいそうですよ、人間界に。」

「あんなにも人と共にあることを嫌悪し、身を隠しつつ人を攻撃し闇に落としていたのにか。」


「帰してみたらどうなるだろうか。」



「帰しましたが周りの人間とは触れ合おうとせず何も成さずに人生を終えました。」


「帰れたことに涙を流し、たくさんの人の中で埋もれて生涯を終えたようです。」

「目立ちたくないと願ったゆえの最期か。」


「たくさんの人間の中には何人か世界を変える者がいるとは思うのです。」

「ただ、それを見つけることは難しいという事か。」


「芽の出ているものを連れて来てみてはどうだろうか。」

「それでは人間たちの個性を摘み取ることにはならないか。」


「芽の出ている者たちはここに来ることを拒みました。」

「あくまでも人間の世界で人間としての生き方を願ったという事か。」


「人としてやりたいことを終えたらこちらに来てもいいという事でした。」

「人を優先するという事ではないか。」


「そりゃ人間界で芽を出しているんです、人間界でやりたいことをやるに決まってるでしょう。」

「確かに、その通りだ。…なんとも人を気にかけるという事は難しいものよ。」


「気にかけたところで、我々ではどうすることもできないという事ですね。」

「差し出がましいことをしてはならんという事か。」


「より豊かに生を全うしてほしいと願ったのだが。」

「それが大きなお世話という奴なんですね、人でない私たちが介入すべきでは、ない。」


「だが、人間の生業を見るのは楽しいのだから仕方がないだろう?」

「ついつい目をかけてしまうからなあ…。」


「そりゃ自分たちと違う考えの持ち主の行動は気になるものですから。」

「なんだ、やけに人間臭い話だな。」


「そりゃ人間ばかり見てたら人間臭くもなるんじゃないのかね。」

「はは、なるほど、食料としてしか見ていなかった時代はこんなこと思い付きもしなかったからなあ。」


「食糧選びも厳選しないといけない時代になりましたからねえ。」

「風雲児を喰らってしまってはますます人間がおかしくなるでな。」


「これからは闇雲に食うのではなく、観察していらんと思ったものを食う事にしよう。」

「無駄食いは人間の数を減らしかねんからな。」


「大切に、大切に見守ろうぞ。」

「あまり手出しをしないようにな。」


「いじりすぎると壊れてしまうそうですよ。」


「見るだけ、見るだけ。」


「明日には暴動が起きているかもしれませんね。」


「明日の事は、我らにもわからんでな、ははは…!!!」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 「団結をのぞむ先駆者が攻撃されています。」 「なぜ率いるものを攻撃するのだ。」 ここで笑ってしまった。さすがです。 [気になる点] 鬼が困っていらっしゃる。 [一言] その点外国人…
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