君へ
ある噂で持ちきりだった。
喫茶店があるらしい。
その喫茶店にどんな事件どんな悩みも解決してくれるヤツが居るらしい。
そんな噂だった。
「暇だ。」
揚るコロッケをぼんやりと見つめながら僕は呟いた。
深夜のバイトというのは一旦一区切りつけば、後は客が来ないとなるととことん暇である。
立ち読みをしては立ち去る客、自動ドアの前でたむろする近くの専門学生を眺める事もついには飽きてしまった。
朝から展示され、誰からもお買い上げされる事なく取り残されたコロッケ達は本来なら廃棄処分にしなければならないのだが、あろう事か僕は再び揚げて食べようとしているのだ。
油から電子音と共に浮上するコロッケに焦点を合わせる事なくぼんやりと見つめていた。
トングでコロッケを掴んだまま深くため息をついた。
その瞬間。
女性の悲鳴が駐車場から聞こえた。
同時。そちらに面していたガラスが破裂したのだ。
店内にガラスの破片が飛び交う。
何が起きたのか分からずコロッケを掴んだまま困惑していた。
我に帰るまで10秒。
いやもっとかかっただろうか。
人は非日常的な状況に陥った場合。
無理やり日常を作り出し、落ち着きを取り戻そうとする。
戦争中、指揮官が重要な作戦の立案の最近タバコを吸うかのような行為もそういう理由もあるのだろう。
エヴァのミサトさんが吸ってた気がする。
僕の場合。
コロッケをとりあえず一口食べ、なんとか平常心を取り戻そうとしていた。
駐車場の方に目を向けた。
そこにはますます理解しがたい状況があった。
割れていたのだ。
隕石が落ちたかの様に。
蜘蛛が巣を作ったかの様に。
その中心に子供が横たわっていた。
小学生くらいの女の子。
何故か真っ暗なスーツを着ている。