6話
今日は、遂にダンジョンに潜る予定の日だ。
この日のために、先日師匠と装備や魔道具を揃えた。
待ち合わせの場所は、探索者ギルド前となっている。
「おー、待ったか透」
「さっき着いたばっかりですよ」
「それなら良かった」
待ち合わせ時刻丁度になると、師匠がやって来た。
今日の師匠は、いつもとは違って探索者らしい装備をしている。
上下ジャージのような格好で、ダンジョンでも動きやすそうな服装だ。
「さてと、ダンジョンに行くか」
「はい!」
俺は師匠は、ダンジョンへと向かうことにした。
今日潜る予定の場所は、探索者ギルドから遠くない場所にあるらしい。
「装備は整えて来たか?」
「ちゃんと初心者セットと買って貰った魔道具を持って来ましたよ」
「揃えてあるなら、良いんだ」
初心者セットとは、魔道具屋で師匠に買って貰ったものだ。
ダンジョンで役に立つセットが、まとめて入っている。
中身は主に、水や携帯食料でその他アイテムもある。
「あれ、透ってダンジョンには入ったことあるんだよな?」
「もちろんありますよ。スキルも持ってますし」
歩いていると、師匠が聞いてきた。
スキルを手に入れるには、ダンジョン内でモンスターを倒す必要がある。
もちろん俺はダンジョンに入ったことがあるので、そのことを師匠に伝える。
「どこに行ったんだ?」
「ダンジョン協会が運営をしている初心者向けのダンジョンですよ」
「この近くのダンジョンか。あー、あそこか。あそこって人工ダンジョンだぞ」
「人工ダンジョン? そんなものがあるんですか?」
「あぁ、何でもダンジョン協会にはそう言ったスキルを持った奴がいるらしいぞ」
「そんなスキルがあるんですね」
俺が初めて潜ったダンジョンは、作られたものだったらしい。
どうりで俺みたいな初心者でも、安全にスキルを手に入れることが出来たわけだ。
浮かれていたのが恥ずかしくなってくる。
剣と魔法なファンタジー世界になってから、多くのダンジョンが誕生した。
そのどれもが自然発生したもので、作られたものは存在しなかったはずだ。
ダンジョンを作るスキル、か。
師匠から聞いたけど、希少スキルだから情報がある程度規制されているらしい。
知っているのは一部の人や、ランクの高い人だけみたいだ。
「それに、あんなに弱いスライムがいるわけないだろ」
「そんなにあのスライムって弱いんですか?」
「当たり前だ。あれは初心者をその気にさせるために、わざと弱くしてあるんだよ」
「え。俺、その気になってました......」
どうやらあのダンジョンのスライムは、弱いことで有名らしい。
他のダンジョンでは、あそこまで弱いスライムはいないみたいだ。
ダンジョンによっては、物理無効や魔法無効のものまでいるらしい。
考えてみれば、ダンジョンで【危機察知】が反応しなかったのはおかしい。
危険がないダンジョンなど、あるはずがないのだ。
それでもスキルが反応しなかったということは、そういうことだろう......。
「まぁ落ち込むな。それに、今回潜るのは未踏破ダンジョンだ」
俺が落ち込んでいるのを見て、師匠はそう言ってきた。
探索者ギルドでも聞いたけど、未踏破ダンジョンとはどんなものなんだろう。
そう思って師匠に聞いた。
「探索者ギルドでも聞いたんですけど、未踏破ダンジョンって普通のダンジョンとどう違うんですか?」
「まぁ、簡単に言うと誰も入ったことのないダンジョンだな」
この程度であれば、俺でも分かる知識だ。
だけど、師匠は続けて説明してくれる。
「冒険者であれば、地図を持ってモンスター情報を知った上で準備をしてダンジョンに潜れる。だが、探索者はそうはいかない。何があるか分からないダンジョンに潜るんだ」
「それってかなり危険じゃないですか」
「あぁ、もちろん危険だ。罠だってあるしどんな強いモンスターが出てくるかだって分からない。そう言う場所にこれから入るんだ」
冒険者であれば、依頼を受けて討伐するモンスターや攻略するダンジョンを決める。
最初から地図を持ち、モンスター情報を知っている。
しかし、師匠のような探索者にはそれがない。
未踏破ダンジョンとは、誰も入ったことのない場所。
つまりは、入るまでは何があるのかすら分からない場所でもある。
これからそう言ったダンジョンに潜るのかと思うと、恐怖を感じる。
「ま、安心しな。そのための指導者だ」
俺が恐怖を感じていると、師匠は俺の頭に手を乗せてそう言った。
探索者ギルドで聞いた初心者の死亡率が高いとは、今聞いた説明を思えば当たり前だ。
初心者がいきなり、何も分からない場所に行けと言われても出来るわけがない。
そのために指導者制度があるのだと、改めて実感する。
それと同時に、師匠の偉大さを知る。
一人では心細いダンジョンでも、師匠がいることで安心することが出来るのだ。
普段は見た目は良いけど、口や態度が悪い師匠ではある。
しかし、ダンジョンとなるとこうも頼もしいとは思わなかった。
「あ? なんか言ったか?」
「俺は何も言ってませんよ。気のせいじゃないですか?」
師匠はおっかしーな、と言いながら頭を掻いている。
心の中で思ったことに反応するとは、侮れないな。
「まー、探索者は危険だけどやりがいもあるぞ」
「やりがいですか?」
「あぁ。自分の作った地図やモンスター情報が人の役に立つんだ。それ以外にも、誰も入ったことのないダンジョンに、自分が一番乗り出来るんだぞ」
「そんなにすごいことなんですか?」
「透、考えてもみろ。まだ誰も知らないモンスター、景色、情報を一番に見つけて感動出来るんだ。命がけのダンジョンだって潜りたくはなるさ」
師匠は、探索者のやりがいについて熱く語る。
まだ見ぬ新天地、モンスターを求めてダンジョンに潜ることの素晴らしさを。
ギリギリの中でのダンジョン探索をする楽しさを。
師匠は、楽しそうに自分の体験を語ってくれた。
輝いてる目で話す師匠は、とても羨ましく思える。
俺も、探索者としてダンジョンに潜っていれば、同じ思いを抱けるのだろうか。
「俺もいつか師匠が見ている景色を見たいです」
「探索者としてやっていれば、いつかは見られるさ」
暫く歩き続けていると、目的地であるダンジョンへと辿り着いた。
そこは、探索者ギルドからも歩いて来られる位置にあった。
「さてと、ダンジョンに入る前に教えておくことがある」
「何ですか?」
「未踏破ダンジョンに入るには、探索者ギルドで許可を貰って許可証を発行する必要がある。今回はあたしの方で手続きはしておいたと」
そう言うと師匠は、許可証を俺に見せてきた。
そこには、俺の名前と師匠の名前が書いてあり、ダンジョン協会の判子も押してある。
「わざわざ許可を取るんですか?」
「面倒だけどこればかりは仕方ないさ。未踏破ダンジョンでは、何が起こるか分からない。探索者が行方不明になった時に、ダンジョンのランクを大まかに把握するのと、捜索隊を出すのに必要なんだ」
「なんでダンジョンのランクが分かるんですか?」
「あぁ。行方不明になった探索者のランクからそれ以上のダンジョンである可能性が考えられる。だから捜索隊には、それ以上のランクの奴が行くことになっている」
「そうなってるんですね」
「だから透も許可だけは忘れるなよ。誰も助けてくれなくなるからな」
未踏破ダンジョンに許可証が必要なのには、ちゃんとした理由があるらしい。
許可を出さなければ、助けが来ないダンジョンで運良く探索者が来るのを待つしかない。
しかし、しっかりと許可を取っていれば自分より高ランクの人が助けに来るのだ。
面倒だけど、しっかりと出すようにしよう。
「さてと、ダンジョンに潜るぞ」
「はい!」
俺と師匠は、まだ誰も入ったことのない未踏破ダンジョンへと潜ることにした。
この先に何があるのかは分からないから、注意して進まなければならない。