2話
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ダンジョンでスキルを手に入れた翌日。
俺は、聞いたこともない【危機察知】と言うスキルについて調べた。
ネットなどを活用して調べてみたけど、調べれば調べるほど謎が深まる。
【危機察知】は、ネットで検索をしても出てこない。
どうやら俺のスキルは、未発見もしくは未報告のものらしい。
名前から分かることは、戦闘系スキルではないと言うことだけ。
能力が名前の通りなら、危険を察知出来ると言うことになるだろう。
そうなると、支援系のスキルでも無さそうだ。
それ以上は分かりようもないので、実践して確かめることにした。
調べても出てこないのなら、自分の手で一から体験してみるしかない。
「ダンジョンに行くか」
この狭い家で考えていても仕方ない。
昨日のダンジョンなら安全に潜れて、スキルを調べることが出来る。
そこでなら、【危機察知】について何か分かるかもしれない。
それに、一人暮らしを始めたばかりのワンルームの部屋では無理がある。
部屋なんか破壊したら、大家が怒って追い出されてしまう。
リスクを取って調べるよりも、安全で動けるダンジョンの方が良いに決まっている。
◇
「身分証の提示をお願いします〜」
ダンジョンの受付には、昨日と同じ人がいる。
ただ昨日と違うのは、昨日よりも疲れている様子だと言うことだ。
その人は、事務的な対応で受付をしていた。
ダンジョン前に並ぶ行列と、疲労を感じさせる表情を見て心配になる。
この人は、しっかりと休みを貰えているのだろうか。
「確認しました。お気をつけて〜」
身分証の提示を済ませたので、ダンジョンへも入る。
今回は昨日とは違って、最初から奥の方へと進むことにした。
入り口近くだと人が多すぎて、まともにスキルを調べることも出来ない。
「ここら辺でいいかな。早速スキルを試してみるか」
ダンジョンの奥へとやって来た。
多かった人も少なくなり、ここら辺でならスキルを試せるだろう。
昨日スキル【危機察知】を手に入れてから、体に目立った変化はない。
そうなると常時発動型ではなく、任意発動型スキルの可能性がある。
「危機察知」
何をして良いのか分からないので、とりあえずスキルを言ってみた。
しかし、何も起きなかった。
「危機察知!」
先ほどよりも大きな声で、スキルを言ってみる。
だけど結果は変わらず、何も起きなかった。
もしかしたら【危機察知】は、明確な発動条件が決まっているのかもしれない。
考え方が間違っている可能性を疑った。
スキル名だけで見るなら、任意発動型と言うよりは常時発動型だ。
そして、能力は危険を知らせてくれるものだと仮定する。
能力が発動しなかったのは、まだ危険が訪れていないから。
故意に自身を危険に晒せば、スキルが発動するかもしれない。
周囲を見ると、ダンジョン内に小石が落ちていた。
俺はその小石を拾う。
手に持った小石を頭上に投げて、そのまま目を瞑る。
仮定が正しいとするなら、この方法でスキルが発動するかもしれない。
上に投げた石が頭に当たる直前、何だか嫌な予感がした。
それは、悪寒のようなムズムズするような何とも言えないような嫌な予感だった。
「いてっ!」
上に投げた石が頭に落ちて来た。
俺は、もう一度同じ行動を繰り返す。
すると、また同じように嫌な予感がしたので、そのタイミングで横に動いた。
その直後、先ほどまで俺がいた場所に小石が落ちた。
「これが危機察知なのか?」
俺は確証を待つために、何度も同じ行動を繰り返した。
その結果、スキルについて何となく知ることが出来た。
目を瞑った状態で同じ行動しても、結果は変わらない。
どうやら、視覚情報から危険を察知しているわけではないようだ。
【危機察知】は、予想した通りのスキルだった。
その能力は、俺に危険な状況になるとそれを知らせてくれる。
現段階で分かるのは、この程度だ。
ダンジョン内でスキルが発動しなかったのは、危険がないからだろう。
出てくるモンスターも素手で倒せるスライムのみ。
それなら【危機察知】は発動しなくてもおかしくはない。
「なんて微妙なスキルなんだ」
スキルについて知れば知るだけそう思った。
このスキルは戦闘系でも無ければ、支援系でもない。
つまり、冒険者として役に立つようなものではないのだ。
ただ危険を知らせるだけで、使い道があるのかすら分からないスキルだ。
これ以上ここで調べても分かることもないから、無駄だろう。
冒険者ギルドに行って、スキルについて聞いてみるか。
そうすれば、何かアドバイスくらいは教えて貰えるかもしれない。
◇
冒険者ギルドに着いた。
ここは、ダンジョン協会が運営を行っている場所で、仕事の請負から斡旋まで幅広い活動を行っている。
ダンジョンで活躍する冒険者なら、絶対に立ち寄る場所だ。
「本日はどのようなご用件ですか?」
「冒険者になりたくて来ました......」
スキルについて聞くついでに、冒険者になる手続きをした方が良いだろう。
冒険者になるために就活をしなかった俺は、そうしなければ金が稼げない。
「分かりました。それでは、こちらの用紙に記入をお願いします。あ、スキルについては伏せても良いですけど、基本的には書くことをおすすめします。その方がパーティ結成しやすくなりますし。」
受付の人からそう言われて、紙を受け取った。
そこには、名前や住所などの項目からスキルなどの冒険者らしいものまである。
俺は、言われた通りにスキルを書くことにした。
スキルについて聞きに来たのに、伏せても仕方がない。
それに、未確認スキルではあるけれど、協力ってわけでもないから隠す意味もない。
名前:萩野 透 はぎの とおる
年齢:23歳
住所:東京都——
能力:【危機察知】
効果:危険を知らせてくれる
俺は、渡された紙に必要事項を記入する。
全ての項目を書き終えたので、受付へと提出した。
「うーん、本当に冒険者になるんですか?」
「はい、そのつもりです」
受付の人は、俺が渡した紙を見ながらそう言った。
「このスキルだと冒険者としてやって行くのは難しいかもしれません。兼業や趣味程度なら出来るとは思いますけど......」
「それでも冒険者になりたくてここまで来たんです」
確かに俺のスキル【危機察知】は、戦闘向きのものではなかった。
しかし、これまで憧れだった異世界やファンタジーな世界が現実になったのだ。
男なら一度は冒険者になってみたいと思うだろう。
「うーん、困りましたね。とりあえず冒険者の説明をしましょうか。冒険者には、EからSランクの等級があります。そのランクが高ければ高いほど、稼げるお金も多くなります......」
受付の人の話を聞いていると、冒険者として活躍しているほとんどの人が、強力なスキルを持っているらしい。
俺みたいな戦闘系でも支援系でもないスキルの人は、どう頑張ってもEランク以上の冒険者にはならないみたいだ。
そして、ランクが上がらなければ当然お金も稼げない。
俺が冒険者になれても、ダンジョンに潜ることは難しい。
出来る仕事と言えば、街中の雑用程度で夢や希望なんてありはしない。
受付の人は、そんな夢を見て現実に直面した人を何人も見て来たのだろう。
だからこそ受付の人は、俺が冒険者になることを反対しているようだ。
パーティを組めば良いかもしれないと思ったけど、現実は甘くない。
Eランク同士が組んだ所で結果変わらない。
「けど、あなたはまだ運が良かったかもしれないですね。冒険者が難しくても探索者という職業には適正があるかもしれませんよ」
「探索者?」
「はい、詳しいことは冒険者ギルドの横にある探索者ギルドの方で聞いてくださいね」
「そうですか......」
探索者なんてものは、剣と魔法なファンタジーな世界になって以降聞いたことがない。
けど、受付の人が進めるってことは何かしらの意味があるかもしれない。
とりあえず話を聞くだけ聞いてみて、それから判断しても遅くないだろう。
「俺、行ってみます」
「それは良かったです。無理に冒険者になって死んでしまう人も少なくないんですよ。あ、これ冒険者ギルドからの紹介状です」
「ありがとうございます」
受付の人は、悲しそうな目をしながらそう言って紹介状を渡してくれた。
彼女は職業柄、嫌なものを多く見ているのかもしれない。
俺はそれを受け取って、冒険者ギルドの外へと出た。