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どうくつのプリズム  作者: 心環一乃
9/11

こぎつねとままぎつね

 くらい洞窟の中、鮮やかなオオトリさんの光がつくる道、まぶしい光でむかえてくれる洞窟の劇場。

 オオトリさんのあとについて飛ぶちょうちょの子供は、飛んでいるあいだに不安をかんじることはありませんでした。オオトリさんのはなつ光につつまれていると、とてもあたたかくなるからです。くらい洞窟でもこわくない。ましてやあかるい洞窟なんて、へっちゃらなのです。

 そんな安心感につつまれて飛んでいるちょうちょの子供、オオトリさんにつづいてまたあかるい洞窟へと出てきました。


 あかるい洞窟。見える舞台。幕はすでにあがっていて、劇ははじまっているようです。舞台にはおうちが一軒たっています。森の中の一軒家みたいです。屋根には煙突。台所にはかまど。中まで見えるおうちには、キツネの親子が住んでいました。

 ちょうちょの子供とオオトリさんがしばらくそのようすを見ていると、舞台のあかるさがかわります。子ギツネがいっぴきでいる玄関だけがあかるくなり、台所のママギツネやほかの部屋はくらくなりました。

 ちゅうもくすべきは子ギツネということでしょうか、ちょうちょの子供は子ギツネにちかづくべく舞台の中へとはいりました。玄関までちかづいたちょうちょの子供は、とんでもないものをみてしまいました。

 玄関には子ギツネが、そして玄関のそとには人間のおんなのこがいて、話をしていたのです。おんなのこはあみかごにたくさんのリンゴをつめてもってきていました。そして子ギツネにはなしかけます。

「キツネのおばさまはいらっしゃいますか? とれたてのリンゴをもってきたんです。おばさまリンゴがだいすきでしょう、きっとよろこんでくれるとおもってもってきたの」

 きらきらのひとみでキツネのおうちをのぞこうとするおんなのこ。ですが子ギツネはおんなのこを中にはいれず、そのうえ嘘をつきました。

「おふくろならきのみをとりに山へ出かけたよ。いまはおれがおるすばん。夜までかえってこないから、リンゴはおれがあずかっといてやるよ」

 あきらかに嘘です。くらくなっているだけで、ママギツネは奥の台所にいるのですから。ですがおんなのこはそれをうのみにしてしまい、りんごのあみかごを子ギツネにあずけてしまいます。

「じゃあよろしくおねがいしますね」

 おんなのこはそういってキツネの家からたちさっていきました。扉をしめた子ギツネはあくどいえがおであみかごを天にかかげます。

「へへーん。簡単にだまされやがって。こんなうまそうなリンゴ、だれがおふくろにわたすもんか。おれがひとりじめだ」

 なんて悪い子ギツネでしょう。リンゴをひとりじめしたいがために、おんなのこをだますなんて。子ギツネはそのまま台所にちかづかず、じぶんの部屋へともどっていきます。抜き足差し足忍び足、部屋のまえまで来て扉をあけました。このまま子ギツネが中にはいればすぐにリンゴにかぶりつくのでしょう。たいへんだ――ちょうちょの子供が扉をあけた子ギツネにやめるようちかよった、その瞬間。

 子ギツネの部屋からママギツネがあらわれ、すばやく手をのばして子ギツネを部屋へひきずりこんだのです。

 とつぜんのことに子ギツネはおどろきます。ひっぱられた子ギツネはすぐに正座させられました。そのよこには、かくしきれなかったリンゴのあみかごがおかれてました。

「そのリンゴはなにかしら?」ママギツネがたずねます。子ギツネはみるみる顔色がわるくなり、あせだくになります。

「ひろってきたんだ。さっきまでそとにいっていたから」

 子ギツネはここでも嘘をいいましたが、ママギツネはそれをピシャリ。

「うそおっしゃい。うちにはそのかたちのあみかごなんてないよ」

 ママギツネのするどい指摘に、子ギツネはしまったと口をすべらせてしまいました。

「おおかた、おんなのこがくれたリンゴをひとりじめしようとしたんでしょう。いくらリンゴが好物だからって、ひとをだますのはゆるせないよ。あやまってらっしゃい、いますぐに!」

 ママギツネにどなられた子ギツネはびびっていわれるがままに部屋を飛び出していきました。たちあがったあと、ちょっとかがんでリンゴのあみかごをかかえあげたママギツネに、ちょうちょの子供ははなしかけました。

「ママギツネさん、ママギツネさん」

「なにかしら、ちょうちょさん?」

「どうやって子ギツネさんの嘘をみぬいたんですか?」

「そんなのあの子のふるまいをかんさつしてれば自然とわかるわ。だてに親をやってないもの」

 おもみのあることばに、ちょうちょの子供はかんしんしました。でもほんとうにすごいと思ったのはつぎにママギツネがかたった、このことばです。

「ときには全ての人々をだますことができる。ある人々はいつでもだますことができる。ただし、ママは全てお見通し。そしてママさえだましても、お天道様には嘘は効かない――あなたもママには気をつけなさい」

 ママギツネはいきようようと台所へかえっていきました。それとどうじに、舞台の幕がおりはじめました。ちょうちょの子供は急いで舞台から飛びさり、オオトリさんのもとへもどりました。


 オオトリさんのもとへかえったちょうちょの子供は、しばらく黙っていました。「ママは全てお見通し」というママギツネのことばがむねにひっかかっていたのです。しょうめんからそれをみまもっていたオオトリさんが、こそっとした声でかたりかけてきます。

「君も心当たりがあるだろう? お母さんに内緒で洞窟探検をしようと、夜中に抜け出してきたのだから」

 ちょうちょの子供はハッときづきます。そうです、オオトリさんのいうとおりです。自分は友だちといっしょに夜家を抜け出してこの洞窟に来ていたのでした。そんな自分たちの悪だくみも、ばれていたのかもしれません。

「かえらなきゃいけませんね、おかあさんのところに」

 ちょうちょの子供はオオトリさんの顔を見ていいました。まっすぐ、目をそらすことなくです。オオトリさんはゆっくりとうなずきました。

「そうだね。君たちには帰るべき家がある。お母さんお父さんを心配させちゃいけないよ。だからわたしも君たちをここまで連れてきたんだ。さあ、もう劇は終わりだ。あの出口から帰りなさい」

 オオトリさんのさいごのことばをちょうちょの子供はすぐにのみこめませんでした。オオトリさんはそっと首をよこに向けます。ちょうちょの子供もそっちを見ると――。


 そこには星と夜空が見える洞窟の出口があり、そしてよこになって寝ているともだち3人がいたのでした。

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