のばなのうつくしさがしれわたったとき
いくつかの劇を見て、その度にいどうして……。
いろんな世界を見て、その度にあたらしい発見。
オオトリさんに導かれ見てきた劇はちょうちょの子供の心に、おおきくひびいていました。
さて、また次の舞台です。
くらい洞窟からあかるい洞窟にぬけるとそこには舞台がありました。でもこれまでとはけっていてきにちがうところがあります。舞台一面、お花畑です。
たくさんのお花が季節のくうきとおひさまの陽射しにつつまれて、ひとつひとつの花をさかせていました。
色とりどりのお花を観賞できる中、ふいに舞台のあかるさがかわります。おひさまの陽射しのような万遍ない照明から一転、ひとすじのスポットライトにきりかわったのです。
そのスポットライトを浴びていたのは、とてもとても、きれいなお花。
するとまわりのお花が、ひそひそと声を出してそのお花に話しかけます。
「ああお姉様、とても綺麗でいらっしゃいますわ。まさに世界一の花のしょうごうはお姉様のもの!」
「まったくですわ。お姉様を上回る美しさなんてありはしませんわ。人間もクジャクも太陽もかないません。世界はお姉様を中心にまわっているのですわ!」
まわりのお花はスポットライトのあたっているきれいなお花を"お姉様"とよび、その美しさをたたえています。光と賞賛の声をひとりじめしているお花は、まるでスターみたいです。人生――いや花の生をおうかまんきつしているようです。
とそこに、ひとりの男の人がバスケットを持ってやってきました。男は脇目も振らずにきれいなお花のもとへ近付いてきます。まわりのお花はこうささやきあいます。「人間も美のなんたるかがわかっているようですわ」と。
ところが、男はお花たちが予想もしなかった行動を見せました。きれいなお花に指をそえ、茎をつまむともう片方の手からハサミを取り出して、きれいなお花をパチッときりとったのです。とつぜんのぼうりょくにきれいなお花はていこうもできず大地から切り離されてしまいました。まわりのお花はひめいをあげます。「なんてこと!」「お姉様がひどい目に!」ときれいなお花にふりかかった悲劇にかなしみの声がとまりません。
そして男はつみとったきれいなお花をバスケットに入れて、その場をたちさりました。すると舞台もお花畑から男の家にかわりました。おとこはつんできたきれいなお花を生け花にしてかざりあげます。そしてその生け花はおおくの人間から賞賛の声を受けるのでした。
人間たちがきれいなお花をほめちぎる場面からまた舞台はお花畑へもどります。おおくのお花がお姉様としたっていたきれいなお花におきたふじょうりになみだをながしています。しかしそんななか、たいしてきれいとも言えない、黄色い菜の花がいいました。
「お姉様は美しかったわ。わたしたちお花だけじゃなく、人間をも魅了するほどに。でもその美しさはもうわたしたちお花の世界ではなく、人間の世界へと奪われてしまったのね。お姉様の評判が種を越えて認められてしまったから、お姉様はこの大地から切り離されてしまったのよ。誰もが価値の有るものをほしがり奪いあうわ。この身を守り、お花としての一生をこの花畑ですごしたければ誰にとっても必要の無い状態であることね。みんな有用なものを求めるけど、無用なものは取ろうとしないもの」
そういった菜の花はその後いったとおり、背景の季節がかわって自分が枯れるまで、ずっとそのお花畑にいつづけました。そして種をつくってかれて、その生をおえたのです。それと同時に、幕はおりました。
ちょうちょの子供はひどくむねがしめつけられました。きれいなお花が一瞬にして人間にもっていかれて道具にされてしまうげんじつに、いたみさえおぼえました。きれいなお花がかわいそうです。でもちょうちょの子供もにんげんですから、こういうことにおぼえがありました。ひょっとしたらじぶんも、勝手なことをしているのでないかなと……。
そこにいっしょに劇を見ていたオオトリさんがはなしかけます。
「過ぎたるは及ばざるが如し。あの菜の花は大物だね。ほんとうはきれいなお花を想って泣いているけど、そこから自分の身を守る道理にたどりついたんだ。人間であるきみも、気をつけた方がいいだろう」
そうつげてオオトリさんはまたくらい洞窟のつうろへと飛んでいきました。ちょうちょの子供もまた、美しさにこだわらず大地で一生をおえた黄色い菜の花のことばをおもいかえしながら、オオトリさんのあとを追いました。