けんりとちからがやること
くらいくらい洞窟のめいろを、ちょうちょの子供はオオトリさんについていきます。オオトリさんの光は闇をてらす道そのもの。このうえを飛んでいれば、ちょうちょの子供はあんしんです。
やがてまえを飛んでいるオオトリさんの姿が見えなくなります。出口の光のまぶしさで、オオトリさんの姿がきえるからです。でももんだいありません。ちょうちょの子供はそのまぶしい光の出口に向かえばいいのですから。
光にふれるまで、あとほんのちょっと――とうちゃくしました。
光あふれる洞窟の中では、劇がまた、はじまっていました。
舞台にいるのはひとりの男。背中にはたくさんの看板をせおっています。何歩かあるいて背景がかわるたびに、その場に看板をたてていきます。なんてかいてあるのでしょう? 舞台がとおくてわからないので、ちょうちょの子供はすぐに舞台に飛び込みました。
舞台にはいってよく見ると、看板には「ここは俺の土地!」と書かれてます。どうやらこの男は、たくさんの土地を自分のものにしたいようです。
「すみません、ちょっといいですか?」
ちょうちょの子供が男のまえに回りこんで質問をなげかけると、男は「なんだ?」と応じました。
「なんでこんなにたくさんの土地を、じぶんの土地にしようとしてるんですか?」
「そりゃあ勿論、儲けるためさ」男は豪快にわらって答えました。
「土地の所有権をもっていれば、そこから生まれる資源や価値が金になる。無駄になることなんてない。たいして働かなくてもお金が入るしくみを作れる。そして土地の所有権ってのは早い者勝ちだ。だからおれはこの星中にこうして看板を立てているのさ。でも、これでさいごだ」
男はそう話すとその舞台の土地にも看板をたてました。ふーっと息をはき、額の汗をぬぐう男。でもちょうちょの子供は奇妙なことに気づきます。まだ背中に看板がのこっているのです。
「その看板は、あまった看板ですか?」
ちょうちょの子供がたずねると、男はとんでもないことをくちばしりました。
「いいや、これはこれから向かう月や火星の分の看板だ」
ええっとちょうちょの子供がおどろく暇もなく、また背景と舞台がかわり、ロケットがよういされて男はその中へ搭乗、そしてロケットはうちあげられて、地球の外へとびだしてしまいました。
うちあげられたロケットをぼう然とながめるちょうちょの子供。するとなんでしょう、うしろでばきっ、ばきっとなにかがわれる音がします。ちょうちょの子供がふりむくと、またおどろかされました。
くさやつちとおなじ色の服を着て、銃をぶら下げた兵隊たちが、ハンマーで男のたてた看板をかたっぱしからこわしていたのです。
「ちょっ、なにをしているんですか」
ちょうちょの子供が訳をきくと、兵隊たちは答えました。
「政府の指示です。ここらへんの土地は我が国がつかうから看板をこわしてこいとめいれいされました」
「でも、看板がたっていたんだからここはあの男の人の土地じゃ……」
「その主張はあの男がしているわけではないでしょう。ここの看板に書かれているだけです。だから看板をこわしてしまえば、文句をいわれる筋合いはありません。あの男が帰ってくるまでに国境線として決めてしまうつもりです。いえ――帰ってくるまでなんてただしくないですね。あんなやつ、帰ってこなくていい。その方がやりやすいし、なにより誰もこまりません」
そしてまたもくもくと看板こわしにせいをだす兵隊たち。ちょうちょの子供は胸がいたくなってその場から飛びさりました。オオトリさんの元にもどったのです。ちょうちょの子供はうまく気持ちをせいりできず、息をはあはあいわせています。するとオオトリさんが首を寄せてきてこういいました。
「あの人間たちのいうことは、お化けと同じ。結局実体のないものさ」
おばけとおなじ――そうかもしれません。ちょうちょの子供がもういちど舞台にふりむくと、兵隊たちがこわしている場面で舞台の幕がおりました。なんとか呼吸も落ち着きました。それを確認したかのように、踵をかえし、またくらい穴へとむかうオオトリさん。そのあとを追って、ちょうちょの子供も飛びさっていきました。