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どうくつのプリズム  作者: 心環一乃
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おそうしきとじょゆう

 くらい洞窟の穴の中、オオトリさんの光のあとをぴったりつけて、またまぶしく光をはなっているあかるい洞窟の、舞台のある洞窟へと飛び込んでいきました。まばゆい光がぜんしんをつつみこんで、ぱっと視界がひらけます。


 あかるい洞窟。やはりある舞台。もう劇ははじまっていました。


 こんどの劇は、おそうしきでした。

 死んだ人の写真がひつぎよりおおきながくぶちでかざられて、たくさんの花がささげられています。

 ひとり、またひとりとその写真のまえでお焼香をして今生のわかれをなげいています。そのよこでは死んだ人の家族親族がみんなうつむいています。お焼香している人を見ないでじぶんの足下しか見ていません。うつむいた姿勢のまま、お焼香のたびにいちいち頭をふかくかがめています。

 そして全てのお焼香がおわり、棺がしきじょうからお墓へとはこばれていきました。おそうしきがおわったのです。

 のこる人、かえる人と参列者のこうどうはせんさばんべつですが、そのとき舞台から明かりが消え、ひとりの女性にスポットライトがあたりました。女性はおそうしきがおわるといちもくさんに家へとかえってしまいました。しばらくしてスポットライトが消え、明かりがまた舞台全体をてらすと、そこは女性の家でした。

 女性はけっぺきしょうなのでしょうか? なんどもなんども手をごしごしあらったあと、なんとソファに肩からさげていたバッグをなげつけたのです。あらっぽい人みたいです。いちぶしじゅうを見ていたちょうちょの子供はこのてんかいにびっくりしてしまいました。


「気になるね」オオトリさんのつぶやきに、ちょうちょの子供は何度もうなずきます。なぜ女性はあらぶっているのか、しりたいと思いました。ちょうちょの子供はオオトリさんのまえに出てからいいました。

「オオトリさん、ちょっと話をきいてきます」

「うん、いってくるといい」

 オオトリさんにことわりを入れて、ちょうちょの子供は舞台の中へと飛び込んでいきます。


「こんばんは、ちょっときいてもいいですか?」

 ちょうちょの子供はソファにすわってお酒をのんでいる例の女性にたずねます。女性はちょうちょの子供を見て、表情をゆるめてこたえました。

「かわいらしいお客様ね。なにかしら?」

「なんでおそうしきのあと、あんなにおこっていたんですか?」

「あら、見られてたの? 恥ずかしいわぁ……」

 女性はただでさえ赤かった顔をもっと赤らめて体育座りのひざのおくにくちびるをかくしました。かなりきゅんとくるしぐさです。それだけにちょうちょの子供は彼女がおこった理由がわかりませんでした。

「確かにおこってたわ。あんなおそうしきをやった遺族に」

「いぞくに?」

 いぞくとはたしか死んだ人の家族でおそうしきとかをとりおこなう人たちのこと――なぜあの人たちに腹をたてるのでしょう?

 目のまえで首をかしげたちょうちょの子供に、女性ははなしはじめました。

「あなたはなんであんなせいだいなおそうしきをしたと思う?」

「えっ? う〜ん……死んだ人をせいだいにみおくるため、かなあ?」

「そうね、せいだいに。でもそれって死んだ人の願いじゃない。あれはね、遺族が死んだ人をたいせつに思っていますってみんなにアピールするためにしているのよ」

「ええっ! そんな……」

「だってにんげんってわかりやすいことしかわからないバカだもの。わたしもそうだけど」

 女性ははっきりといいました。かのじょの話はさらにつづきます。

「ほんとうにたいせつにしているなら、親孝行とかおせわとか、いしきしてやるまでもないこと。自然に、それがあたりまえになるから、そんな言葉もわすれちゃうし、まわりもあたりまえすぎてうたがうこともしない。でもうしろめたいことがあるとじぶんのイメージをよくしようと必死になる。あのおそうしきはそういう意図がだだもれで気分がわるくなったわ。だからおこってたの」

「そうだったんですか。でも、おこっていたわりにはおそうしきのさいちゅうはおとなしかったですよね」

「そりゃあわたし、女優ですから」


 女性の話をきいたちょうちょの子供はオオトリさんの元へともどりました。ゆっくりと。ひらひらと。

「どうだった?」

 オオトリさんがきくと、ちょうちょの子供はこういいました。

「たいせつにすることをあたりまえにするってはなしがそうだいすぎて、なんだかぼうっとしちゃいます」

 ちょうちょの子供のことばをきいたオオトリさんはだまってうなずき、翼をひろげてまたくらい穴へと飛び立ちます。ちょうちょの子供もそのあとについて飛びさっていきました。

 もう幕のおりた舞台から、そっとはなれていきました。

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