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どうくつのプリズム  作者: 心環一乃
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ルールをまもるせきぞう

 鮮やかでかがやく鳥のオオトリさんについて、洞窟のくらい穴のひとつへと入っていくちょうちょの子供。

 くらい穴の中、オオトリさんが光ってくれていたおかげで、進むのに不便はなく、まようこともありませんでした。

 上からつりさげられている石と、下からもりあがっている石をいくつかよけて進むと、オオトリさんの光ではない、まばゆい光が飛んでいる先に見えました。


「あそこへ向かうよ」

 オオトリさんがちょっとスピードを上げて光の出口へと向かいます。ちょうちょの子供もそれを追いかけます。

 光がどんどんまぶしくなって、ついにまっくらから抜け出しました。


 まっくらから抜け出すと、そこには劇場がありました。洞窟の中なのに、です。

 ちょうちょの子供がびっくりして羽根をパタパタあわてさせます。それをなだめるように、オオトリさんが声をかけてきます。


「この洞窟にはね、たくさんの舞台があるんだ。外から入ってきた光がしみこんで、こういうときに舞台劇をはじめる。出口にたどりつくまで、いくつかこういう劇を見てまわらないと。さあ、この劇は、どんな一幕だろう?」


 オオトリさんにうながされ、ちょうちょの子供は洞窟の中の劇に目を向けました。

 そこは石づくりの神殿の中。おおぜいの人がむらがって、ある石像の前で手を合わせています。どうやら人びとのもくてきはこの石像のようです。


「疑問があったらきいてごらん。みんな答えてくれるから」

 ちょうちょの子供のよこで、オオトリさんがそっとささやいてきます。ちょうちょの子供はうそだと思いました。劇をやっている人がお客さんのしつもんにこたえるとは思えなかったからです。ですが、オオトリさんがうそをいうなんて、もっと思えないことでしたし、なんでみんなが石像にあつまるのか、しりたい気持ちもあったので、思いきって舞台の中へと入っていき、石像にあつまっている人にきいてみました。

「すみません、ちょっときいてもいいですか?」

「なんだい?」

「このせきぞうは、ありがたいものなんですか?」

「ありがたいなんてもんじゃない、とても立派な石像さまだよ。これは生まれてから一度も間違いをおかさなかった偉人の石像なんだ。だからおれたちもこうしてあやかって、自分のおこないを反省しているのさ」

「そうなんですか」いっしょうけんめい石像のまえで頭をさげている人から話をきいて、ちょうちょの子供はへぇと思いました。するととつぜんはいごから、ちょうちょの子供に声がかけられます。

「そうです。わたしは、何も間違えませんでした」

 ちょうちょの子供がびっくりしてふりむくと、なんとその石像さんが話しかけてきたのです。

「あ、あの、石像さん」

「なんですか?」

「あなたはしゃべれるんですか?」

「当然です。わたしは元々、人間でしたからね」

「ええっ!」


 ちょうちょの子供はびっくりしてちょっと羽根をばたつかせます。にんげんが石像になるなんて、きいたことがありません。そしたら石像さんが自信たっぷりの声で話しはじめました。

「世の中には、人が守るべき仁義道徳礼節があります。ルールもです。親の言うこと、先生から教わったこと、国の法律、そして神様の教えです。わたしは立派な人間になろうと教わった全てのルールを守るために自分を厳しくいましめました。そうしてついにあらゆる間違いをすることのないうごかぬ石像になったのです。いらい今にいたるまで、わたしはひとつの間違いもおかさず、今ではこうして大勢の人のお手本になりました。とても気持ちいいものです。どうです、あなたも……おや? いない――」


 石像さんが話終わるまえに、ちょうちょの子供はオオトリさんの元へと飛び去っていました。なぜだかわかりません。でも石像さんの話をきいていると、じぶんも石になりそうな気がして寒気をかんじてしまったのです。オオトリさんのところまで戻ったちょうちょの子供はオオトリさんの背中にかくれました。

 オオトリさんの背中からもう一度舞台のほうをのぞくと、ちょうど幕がおりて、舞台は見えなくなりました。オオトリさんが落ち着いた声で話します。

「これでこの劇はおわったよ。さあ、次の舞台へ行こうか」


 オオトリさんが翼をひろげ、全身からあったかい光を出して、またべつのくらい穴へと飛んでいきます。ちょうちょの子供も追いかけるように後について飛んでいきました。

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