おわかれとえんそくのおわり
「出口だ……みんな、無事だったんだね!」
ちょうちょの子供はオオトリさんのまえに飛び出し、全速力で寝ている3人のともだちのもとへ向かいました。到着するとそとから風がながれこんできて、からだをあおられてしまいましたが、ともだちのかおいろをうかがうまでちかづくことは容易です。3人ともすやすや寝息をたててぐっすりねています。怪我とかはしていないようです。ちょうちょの子供はあんどのあまり、ちょっとふらついてしまいました。こんどは風がふいてくれたのでおちずにすみました。たすかりました。
よろこびとあんどにむねをなでおろしたちょうちょの子供のよこに、オオトリさんが飛んできます。ちょうちょの子供はここで、だいじなことをおもいだしました。
「オオトリさん、この魔法を解いてください」
そうです。ちょうちょのすがたから人間のすがたに戻らないと、いっしょに帰れませんし、家にいれてもらえません。ちょうちょの子供がたのむのもとうぜんです。するとオオトリさんは、ちょうちょの子供や寝ている友だちよりももっとまえ、出口にちかい洞窟の入口にひらりと飛んでいき、こちらにふりかえっていいました。
「大丈夫。その魔法はわたしがこの洞窟から旅立てば自然と解ける。君は人間に戻れるし、友だち3人も目が覚める」
「そうですか、よかった――」
よかったとまでいいかけて、ちょうちょの子供はだまりこみます。なんかひっかかるのです。オオトリさんのことばに。なんだろうとあたまの中でもういちど再生すると、重要なことにきづきました。
「たびだつ……? オオトリさん、いなくなっちゃうんですか?」
そう、それです。自分たちをたすけてくれたオオトリさんが、ここからいなくなってしまう。かなりショックなはなしです。たすけてくれたことに感謝しているのもありますが、洞窟の劇をあんないして、ずっとみまもってくれたオオトリさんに、ちょうちょの子供はとくべつな気持ちをもっていたのです。さっきまでの安心感はどこへいってしまったのでしょう、ちょうちょの子供は見ればわかるといわんばかりにどうようしています。
そんなちょうちょの子供の様子を伺っていたオオトリさんが首をもちあげ、ふりおろし、からだから今までで一番つよい光をはなちました。神々しい、ちょうちょの子供がその姿にみとれていると、オオトリさんがしゃべりだします。
「そんなに悲しむことじゃない。元々わたしは世界中をあちこち旅していたんだから。随分この洞窟にいたけれど、今日君たちに劇を案内していて思った。そろそろわたしも外へ出ようって。いつだってわたしはあるがままを感じ、ありのままに思い、あるべきままに動くだけさ。だから旅立つ、それが今なんだ」
「オオトリさん……」
ちょうちょの子供はことばにつまります。なにか大切なことをいわなくちゃいけない気がするのですが、なにをいえばいいのかがわからず、ことばにつまっているのです。上手くしゃべれずちょうちょの子供は泣きそうになりますが、オオトリさんはやさしく翼を羽ばたかせ、最後にこういいました。
「大切なものは、言葉で憶えるものじゃない。心に根付いているものだ。大丈夫、君たちの心にも、わたしの心にも、もう根は生えているのさ」
そういったオオトリさんはちょうちょの子供に背を向けて星がきらめく夜空へと飛びさっていきました。「さよなら」ということもなく、ほんとうにあっさりといなくなってしまったのです。
「待って」という間もなかったちょうちょの子供はただオオトリさんの飛びさる姿を見ていることしかできませんでした。光って飛んでいくオオトリさんの姿がどんどん小さくなって、やがて星の中にまざったときです。
洞窟の中から外へ、ピカッと光がかがやいて、出口にいたちょうちょの子供や友だちをつつみこみました。
光につつまれたあと、目が見えたときにはもう、子供はちょうちょの姿ではありませんでした。人間の子供の姿にもどって、友だち3人と手を繋いで、洞窟の出口にたっていました。子供たちはお互いに目を合わせ、無事をかくにんしあいます。にぎった手のあつい体温が、その答えでした。
無事でよかったと思った子供たち。ですがその前に、見慣れない人影がいます。山に登るような格好をした、ヘルメットをかぶったおじさんです。おじさんはまぶしい陽射しを背に、こういいました。
「以上で洞窟探検はおしまいです。きれいな洞窟だったでしょう。是非またガイドをさせてください」
その言葉を聞いた途端、子供たちのあたまにたくさんの映像、音、匂い、触り心地、そして朝ごはんの味がなだれこんできました。子供たちは「えっ……」とぼやいて固まってしまいました。
もう今は夜ではなく、わるだくみから家に帰って、朝起きて洞窟に集合して、ガイドの人に洞窟を案内されてそして探検を終えた、遠足終了の時間になっていたからです。