実技試験の迷宮 そのニ
突然の始まりの合図に皆が慌てながら入り口に入っていく。そして入った人が瞬間に消えていった。
(なるほど……幻覚の中入っていく感じか。)
未来は入る前に冷静にみんなが入っていくのを見つめる。
オーガの戦闘。その経験を生かし、冷静に物事を判断する。
「よし、入るか。」
心を落ち着かせながら、未来は入り口へ足を踏み入れる。
視界が少し歪んだ後、さっきとは全く別の場所にいた。
(他の人と鉢合わせないようにするための転移か?)
そう思いながらも歩き始める。
辺りは妙に静かで音がするのは未来の足音だけ。
(妙に静かだな。でも、警戒は怠らないようにしておこう。)
未来は剣を構え、前へ進む。
その瞬間、背後から何者かが走りながらこっちに向かってくる音が聞こえた。
「うっ!!!」
振り向くとそこには狼系の魔物のダークウルフが未来に向かって飛びついてきた。
突然の事に対応できず、未来は防御ができず、左腕まを噛まれてしまう。
ダークウルフの牙は未来の左腕に食い込んでいったのだが痛みが無く、かわりに負の感情が流れこんできた。
(これが、精神攻撃か–––!!!)
未来は剣をダークウルフの顔に刺した後、頭を掴み、遠くへ投げる。
ダークウルフは2メートルほど飛び痛みに苦しんでいる。
(す、すごい–––あんなに飛んだぞ……)
ダークウルフは実物に近い重さにかかわらず投げれた事に未来は感動を覚えた。
だが、さっきの精神攻撃により頭痛が未来を襲う。
「あっ––!!」
(これはキツいな––––!!)
頭を抱えなが前に進む。
未来は前に進みながら違和感をいだく。
(このグラウンドってこんな広かったか?)
未来の推測だとグラウンドの直線は500メートル。
だが、今歩いている感覚だと軽く1キロを超えていた。
(これも幻覚の作用か?)
考えていると後ろから気配を感じ、剣を後ろに向けた後体も向ける。
気配の正体は緑色の小鬼–––ゴブリンだった。
ゴブリンは未来の剣に噛みつき、ギシギシと音がなる。
(お、おい。幻覚相手なのになんでギシギシ音がなるんだよ……!!!)
幻覚のモンスターは精神的な攻撃をしてくるが決して物理攻撃はしない。
ならなぜ剣から音がなるのだろうか?本物に極限にまで近づけているのだろうかと未来は思ったがその予想は外れてしまう。
ゴブリンの攻撃を剣で受け止めている時、後ろから何者かに蹴りを入れられる。
「があっ!!」
強い勢いに少し吹っ飛びはしたがすぐに体勢を立て直し、蹴り飛ばした犯人を確認する。
犯人はゴブリンだった。だが、今の一撃は痛みがあった。精神攻撃ではなく、物理攻撃だったのだ。
(な、どういう事なんだ……まさか紛れ込んで–––!!)
それだけではなく未来の周りにゴブリンが集まってくる。少なくても10匹以上はいた。
(こ、こいつらは本物なのか?)
四面楚歌の状況。幻覚でも本物でもかなり危険な状況。未来は剣を構えながら警戒する。
(だ、大丈夫だ。自信を持て。俺ならなんとかできる!)
未来は自分に言い聞かせ冷静に今の状況を確認する。
(今俺ができる事は………)
ゴブリンに囲まれている中辺りを見渡し、ゴブリンの密度が低い所を見つけ出し、
(逃げる!!)
そこへ全力で走りだす。
剣で威嚇しながら走り、なんとかゴブリンの群れから解放され、前に進む。
(今すごくまずいんじゃないか?)
未来は走りながら、この状況の危険性を考える。
(この幻覚の迷宮に本物のモンスター–––もし、幻覚のモンスターに敗れた転入生をモンスターが発見したら殺されるかもしれない––––!!!)
「誰かーーー!!聞いてくれーー!!この幻覚の中には本物の魔物がいる!!!だから安易にモンスターに近づかないでくれーー!!!」
未来は声が枯れるくらいの声で叫び、町の探索を開始する。
(ここに来ているのは剣術学院の転入希望者。少なくても剣には自信があるはずだけど……!待っていてくれよ!)
未来は剣を鞘に納め最短での町の攻略を開始する。
町から抜け出し、先生に報告する事で幻覚を晴らし、本物の魔物を見つけ出せるかもしれない。と未来は考えていた。
未来は頑張って屋根の上まで登り、ゴールを目指す。
すると下から悲鳴が聞こえてくる。おそらく誰かが本物の魔物と遭遇したのだろう。
未来は無理やり自信を作っているだけで本当は戦闘に自信がない。もしかたら負けるかもという考えから脳裏から離れず、通りすぎてゴールを優先する事を考えだが、体が無意識に動き、下へ降りる。
「だ、大丈夫ですか!!?」
下へ降りた未来は悲鳴が聞こえた所まで駆けつけ声をかける。
悲鳴の正体は朝にいた未来に話しかけていた少女だった。
「き、君は––––!?」
「大丈夫!?立てる?」
「………後ろ!!」
未来は後ろを振り向くと、大きなゴブリンがこんぼうを振り下ろそうとしていた。
「ぐっ!!」
咄嗟に彼女を抱え、前へ飛ぶ。なんとかゴブリンの攻撃を躱せた未来は後ろにいるゴブリンを見つめる。
「ホブゴブリン……本物なのか?」
「多分…幻覚のモンスターを殺してたし–––」
本物のモンスターのホブゴブリンは口元をニヤリと歪ませる。
「こいつ、俺達を殺す気だ––––!」
「逃げようよ!!」
「––––君は先に逃げてくれ。」
「え?」
彼女は口をポカンと開けている。
「俺が君を逃げられる時間を稼ぐ。あそこから屋根の上まで上がって一直線に進めばゴールのはずだ。」
「で、でも!!」
未来は彼女に微笑み–––。
「–––後は、任せろ。」
そう言い、彼女の背中を押す。
そして彼女も未来を連れて逃げるのを諦めたのか建物を登り始める。
未来は剣を抜き、ホブゴブリンに吠える。
「さぁ、来いよ。俺が相手だ!!」




