剣術学院へ
椿の特訓が始まった。
筋トレ、ランニング、素振りを繰り返しで行い、未来の身体を強化していた。
「はぁ……はぁ、もう…無り…ぐへ!!」
時にはランニング中にスタミナ切れになり倒れたり、筋肉痛で動かなくなったりと。時間が空いた時には異世界の文字の勉強。何度も心が折れそうになった。
(もう…俺には無理なんじゃないか?)
けれどそのたびに未来は努力する目的を思い出す。
(そうだ。今頑張らないといつ頑張るって言うんだ!)
そう心を奮い立たせ、数ヶ月の月日が過ぎ、剣術学院へ出発の時が来た。
「まだなんとも言えないけどとりあえずは大丈夫だと思うよ!自信持って!」
特訓後、火照った体を見るとその体は以前の未来の体とは大きく違っていた。
筋肉が全体的につき、たるんでいたお腹はうっすらと線が見えるようになっていた。
そして未来の心境も変わっていた。
椿への嫉妬心はいつしか椿のような人間になりたいという憧れへと変わっていた。
「と言っても、逆にその自信が油断に変わることがあるから気をつけてね?」
「うん。わかった。」
「それならいいけど。」
「椿は剣術学院には来ないのか?」
「私はいい。ギルドに入って帰れる方法を探す。」
「ギルドか……わかった。ならしばらくの別れだな。」
「そうだね。」
未来は笑顔を作る。
「それじゃあ、また会おう!」
未来は自分でらしくないなと思いながらもセリフを吐く。
「うん!会おうね!」
そして未来と椿は違う道を歩み始めた。
***
剣術学院まで30キロ。未来には移動手段が無い為徒歩で向かっていた。
草原を越え、荒れた道も越え、残り少しの時にとある町にたどり着き、少しの間、休憩を挟んでいた。
(足が痛い……特訓をしてこれじゃ、特訓前ならもっと酷かったんだろうな–––)
以前の自分ならと比較する。
今の未来はようやく他の人と同じ土俵に入れるようになったようなものだ。これからの未来の努力次第で強くなったり、強くならなかったりする。
(それにしても、人がいないな。)
未来は辺りを見渡し、人がいない事に気づく。
家にいるのか?と思ったが真っ昼間にそれは無いかと思い、辺りを歩き始める。
歩き始めてから数分が経ったころ、未来は遠くからシルエットを見つける。
(人か?……いや、違う?)
そのシルエットは明らかに人の大きさをこえている。
未来はかなり近づいた所でようやくわかった。あれはモンスターだと。
「ひぃっ!」
モンスターだと知った途端、恐怖で声を上げた未来にモンスターは気付き、こっちに振り向く。
「えっ?」
未来は怯えながも、目を細めモンスターの奥にいたもう一つのシルエットを見る。
(あれは……子供か!?)
町に人がいなかった理由。それはモンスターが出た事により家に逃げ込んだ為。
あの子供は逃げ遅れた為モンスターに見つかってしまった。
(どうすれば––––!!?)
未来は震えながら剣の柄を握る。圧倒的な恐怖と、あの子を助けなければという二つの感情がぶつかり合う。
(お、俺は……!!)
未来は突然、剣を鞘から抜き無我夢中に走り出す。
「あ、うあああああぁぁぁぁっっっ!!!」
(か、体が勝手に!!?)
未来は無意識に子供を助ける為、モンスターへと向かっていったのだ。勇気の行動。とは違うが、本能が助けなきゃという感情に突き動かされ、走り出したのだ。
モンスターは人の二、三倍大きな体をしており、頭には小さな角があった。
未来は本でどんなモンスターがいるのか把握していたため、このモンスターも何か知っていた。
このモンスタ––––オーガは賢さと知性が皆無に近しいほど少なく、頭を使えば倒せないことはないが、巨体ゆえ攻撃があたるとただではすまない。
未来は剣を横薙ぎをし、オーガの腹に小さな傷をつける。
(嘘だろ…!?渾身の一撃だったのに!!)
「がはっ!!」
オーガは未来をなぎ払い建物の壁に叩きつけられ、その場に倒れる。
そして、子供から未来へと狙いを変え、近づいてくる。
(終わった……何も出来なかった。)
諦めた未来は椿の言葉を思い出す。
『出来ないなら出来るまで頑張ればいい。そんな簡単に諦めないで。』
(そうだ。今諦めたらいつ頑張るって言うんだ!)
未来は剣を強く握りしめ立ち上がる。
だが目の前に一人の男が立っていた。
その男の服の背中には大きな十字架が描かれていた。
「後は、任せろ。」
男はオーガの前に立ち、鞘から剣を抜き、剣を右、左と次々に違う方向から斬りつけ、オーガを倒す。
「す、すごい………!!」
小さく声を漏らした未来は男を見つめる。
(容姿からして学生か?俺と歳が近いように感じる。)
すると男は俺に近く。
「お前、名前は?」
「吉沢未来ですけど……」
「ヨシザワ・ミライか。お前のその勇気に敬意を表する。」
そう言った後、男は去っていく。
「あ、ありがとうございます。」
未来は呆然としながら口にした。




