プロローグ
「俺は英雄にはなれないよ。」
彼はそっと剣を置き、赤く焦げた夕焼けを見る。
わかっていたんだ。こんな非力で無能で根暗な彼が何かを変えるなんて出来るわけがない。
今までそうだ。
何かあったらすぐに環境や人のせいにして、自分を変えようとしなかった。
「ごめん。やっぱり出来ないや。」
彼はそう言った後、彼女の元から離れようとする。
「逃げないで。」
彼女は彼を呼び止め、話し始める。
「出来ないなら出来るまで頑張ればいい。そんな簡単に諦めないで。」
その言葉は彼の心に刺さる。
それもそうだ。彼女は学校でも勉強もでき、運動もできた。それは才能ではなく、ひたすらに努力をしてきたからだ。
それを横で見てきた彼はそんな事はできないとより一層強く根暗になり、そして彼女に嫉妬していた。
わかっていた。ただ努力をしたくは無かっただけなのだと。それなのにあんなに必死に努力していろんな物を掴んでいく彼女に嫉妬していた。
そんなのは怠惰で傲慢なのだと。
「君もまだ諦めないで。またあの世界へ帰りたいんでしょ?」
あの世界に帰りたい。
家族に会いたい。
その言葉に彼は––
「––––わかった。俺も努力をして、強くなって–––
そしてあの世界に帰る。」
「うん。頑張れ!」
そしてこの瞬間。彼––––吉沢未来の時間がようやく動き出した。




