なりきりスマホ少年の異世界征服ライフ ~スマホ一つと特殊能力一つで転生した世界を我がものにします~
文章評価をして頂けたら幸いです。
『愛知県 車の事故数 今年も全国内最多件数』
そんなニュースが目に入る。片手に持つスマホを右指で上へと手繰る。物騒なニュースから目を背けるように華やかなニュースを探していた。
『転生者か!? 異世界へと転生した男性が元の世界へと帰ってきた?』
っふ、と思わず吹き出した。そんな嘘みたいなことがあるのか。心の中で笑う。異世界へと転生するとかそんな馬鹿みたいなこと起きる訳ないじゃないか。
不可思議なオカルトを信じて載せるそのニュースが滑稽すぎる。見下す心が大きくなっていく。羽曳野 御厨はスマホに目を奪われた。車が衝突することにも気付かない。
歩きスマホによる衝突事故。
ミクリの胸は破壊され、命を断ち、生を奪われた。だけど、スマホだけは離さなかった。スマホは仲間や友達とを繋ぎ、無限の情報量を持ち、自身の全てを想像した。そんなスマホを手放さなかったが、生命を手放すこととなってしまった。
☆
身体が重い。
先が真っ暗闇だ。目を瞑っているのが分かる。瞼が重くて目を開けない。立ち上がれず動けない。辛うじて身体を揺さぶった。
「あーっ、意識戻ったんだぁ!!」
耳に入るオタクアニメにありそうな女の子の声。五感の"聴く"を研ぎ澄ましその声を頭で反芻する。
その声から連想するに美少女で間違いない!!
漸く重い瞼を開けるようになった。ぼんやりとした瞳に映るのは、巨大な胸に髪を束ねた長い髪、そして、、、そこで何度も瞬きをした。
目の前には中年の女性。肥った身体を揺さぶりながら顔を覗く。ふくよかな顔にはニキビが埋まる。
「嘘だ!?美少女じゃないのだと!!?」
ミクリは声と見た目とのギャップから思わずド肝が飛び出た。信じがたい光景を見て一瞬気絶しそうになった。
「良かったねぇ、完全に意識戻ったじゃないかぁ」
どすの効いた声が響く。それは目の前の女性から出された言葉だ。ということは美少女の声ではない。それでは、あの声は何だったのだろうか、とミクリは首を捻った。
女性はミクリを眺める。
「だけど、美少女が何だって?」
ミクリは不正解の答えを押し殺し、黙った。女性とミクリが見つめ合う時間が続き、ついに女性が耐えられなくなった。
「まあいいや、あたしはミルクィー。あんたは?」
「我は……ミクリ」
「そうかい!!」
ミルクィーは満足げにミクリを見つめた。
ミクリにはその状況が嫌悪感で募っていく。その気持ちとともに、あの声の正体が気になって仕方がない。
その時、ミルクィーの後ろからひょこっと顔を覗く女の子。ミルクィーとは似ても似つかない可愛さ。優しく微笑むその姿にミクリは確信した。その子こそが声の正体だと!
「私、リミィって言うの!!よろしくっ!!!」
やはり、正解だった。
ミクリは有頂天の気持ちでリミィを見る。
「リミィさん、よろしくな!!」
「あたしの方に"よろしく"言わないのは何故だい!?」
「あ……ミ、ミルクィーさん、よろし……く」
くすんだ橙色に輝る部屋。木材で出来た床や壁が橙を反射する。柔らかい布団を折りたたみミクリはベッドから足を出した。
そんなミクリにリミィが見る。
「ミクリさん!リビング行こっ!!」
「ああ、そうだな」
リミィを先頭に、ミルクィーとともに部屋を出た。木材の床を歩き、薄暗い階段を降りる。そして、現れたのが燃ゆる太陽の照らすリビングだ。
淡い色のファンが回っている。プロペラが穏やかな風を送っている。
「ねぇ、ミクリさん、草むらで倒れてたんだよ。この世界にはない物を握って倒れてたからビックリしたよ!!あれって何なの?」
リミィはそう言ってスマホを取り出した。
ミクリはそのスマホを受け取った。意識が途切れる前まで持っていたスマホで間違いない。これは「我のスマホ」だ!!
「スマホ?スマホって言うんだ!それ!!」
リミィを興味津々でスマホに顔を近づける。イコール、スマホを持つミクリの顔に近づくこと。そのため、ミクリはリミィを間近で眺めていた。すぐに恥ずかしくなり、赤面しながら顔を背けた。
リミィは顔を離すとミクリに訊ねた。
「そのスマホってどんな道具なの?」
「スマホは連絡したり大量の情報から欲しい情報を見たり……取り敢えず、色々出来るからな。なんて説明すればいいか分からない。」
ミクリは手元のスマホをいじった。
変わらない暗証解除。だが、入れていたアプリはなかった。特に、課金までしていたゲームアプリまでもが消えていてミクリの魂は抜ける程の衝撃を受けた。
車に衝突されるよりもゲームが消される方が辛い!!と思うミクリであった。
殆どのアプリは消されていて、残ったアプリは電卓アプリや辞書アプリ、時計など基本アプリしか残っていない。アプリストアなども見当たらず、アプリを増やすことも出来ないだろう。アプリは使えないが、検索機能は使えて調べることなら出来る。
ミクリは一通のメールが送られてきていることに気付く。見知らぬメールだ。メールの履歴はその一通以外消去されていた。ミクリは唯一のメールを開いた。
『羽曳野 御厨様
ご機嫌はいかがでしょうか。このメールが送られている頃にはその世界に慣れている頃でしょう。
私は転生屋を勤めている者です。転生者からしたら"神様"とも言えるでしょう。転生屋とは死と生を彷徨う者を異世界へと転生及び転移させる仕事を行う者です。私はその仕事により貴方を異世界へと転移させました。
その世界で生き延びることも大変なので貴方が大事にしていたスマートフォンを同時に挿入させて頂きました。
スマートフォンに入っていたその世界に生き延びるために必要のないアプリケーションは全て消去、及びダウンロードできないようにしました。その代わりといっては何ですが、充電は減らないよう能力を加えたのでご許し下さい。
そのスマートフォンには"知識"と"能力"を授けています。貴方自身には転生ではなく転移ではありますがスマートフォンを操れば能力を使えます。情報の検索機能を操ることで"知識"を得て、私の授けた"能力"を操ることでこの世界の悪を倒して下さい。
この世界に蔓延る悪を全て滅ぼした時に貴方は元の世界へと戻れることでしょう。
最後に貴方に"能力"を与えるアプリケーションを渡します。下記のURから取得して下さい。
http://narikirisumaho14914109610』
ミクリは早速そのURからアプリを取得した。そこには、不思議なアプリがあった。
最初の画面は注意事項及びアプリ説明からだった。
『異世界なりきりアプリ
このアプリは<1日1回入力された"もの"に変化>する能力を持ったものです。
入力された時からその日の日没まで入力された"もの"(人間個名も含む)なら何でも姿を変えることが出来ます。ただし、今まで入力されて変化した"もの"には変化できません。
・変身中の能力やステータスは全て変身の対象と同じとなります。
・変化中に死んだ場合は日没後変化する直前の場所に飛ばされます。
・変化から戻ると受けた傷などは回復します。
・変化中は元の姿に戻ることは出来ません。
・変化は1日1回まで!今まで変化した"もの"にはなれません。』
そんなアプリを開くと、すぐそこには空白欄が目に映る。そこにタイプしろ!という意味だろう。ミクリは早速空欄に文字を打ち始めた。
「何してるの?」
「我に与えられた能力を試すのさ」
「へぇ、どんな能力なんだろー!気になるーー!!」
Å ミルクィー Å
ミクリは何となく試し書きとしてミルクィーと打ち込んだ。するとすぐにミクリの身体に変化が起きた。
身体が粘土のようにうねりくねり、いつしか前の身体よりも大きな身体となった。窓に映る自分を見るミクリ。その身体はミルクィーそのものだった。
リビングにいたミルクィーは驚く。
「こりゃ、驚いた!まさかあたしに化けられるなんて!!」
「ミクリさん!すごーい!!それに、スマホって変身させる武器だったんだぁ!!」
違う!!そんな武器じゃない───!!
ただ、突っ込むとこの自慢げな空気に水を指すので突っ込むことはしなかった。
煽てられ自身げなミクリだったが、すぐにその気持ちは落ち込む。そして、何故ミルクィーに化けたのだろうと後悔した。非常に動きづらい。
「早く日没になってくれ、なんかこの姿でいるの嫌だ!!」
そう言って、ミクリは嘆いた。
それを聞いたミルクィーはミクリを睨む。
「なんか言ったかい!?」
「いえ、何でもないです!!」
ミクリはそう返すしかなかった。
夕焼け差す部屋の中でミクリはリミィにこの世界について聞くことにした。
元の世界へと戻るためには全ての悪人を倒さなければならない。
「そういや、この世界の悪人って誰か分かるか?」
「この国なら、上級人物が悪人だと思う!」
「上級人物?」
「うん!金持ちの財閥や貴族が政治を独占しててね、金とか権力とかその人達に独占させられていて、リミィ達平民は貧しい生活を強いられているのよ!!まあ、このことは町中で言ったら捕まるから内緒にしてね!」
ミクリは頷いた。最初の悪人は金持ちや貴族か。
「ねぇ、ミクリさんはどうしてそんなことを聞いたの?」
「我は全ての悪人を倒す予定なんだ!!」
それを聞いたリミィは慌てふためいた。
「駄目だよ!!殺されちゃう!」
「彼らは独占した財力を持って強力な武器を持つ、それに貴族に関しては珍しい特殊能力を持っているんだ!!諦めな!!!」
リミィにもミルクィーにも止められた。だが、それでもミクリはやる気だった。
「それに、この国の軍のトップ2が彼らを護っている。一番強いリオンは遠征して長くは帰ってこないけど、二番目に強いシータウが護ってる。あんたじゃ勝てないよ!!」
裏を返せば、トップがいないこの時がチャンスじゃないか。
「それでも我はやるしかないんだ!どんなに止めても我は行く!!」
「じゃあ!リミィも着いてく!!何か危ない目に出くわしそうなら連れて帰るからね!!!」
リミィは強く意志を固めた。
橙の光が色を喪っていき黒ずんでいく。それと当時にミクリの身体は元の姿へと戻っていった。
「この能力とスマホを駆使して、まずは貴族らを没落させてやる!!」
薄く照らすダウンライト。
スマホを片手にミクリは空を睨んだ。
「やるとなったら、まずは作戦から入ろうか!!」
少年ミクリと美少女リミィは決戦のための作戦を固め始めた。スマホの光が漂っていた。
ハイファンタジーの作品の更新にブランクが空いたので、肩慣らしに書いてみました。続きは考えてないので、ないです。
「魔王」による「平和」のための「勇者」狩り(進行中)
マトリョーシカ人間《俺》第一章(完結)
部活に関してなら何でもやります!!~いや、どんなことでもやりますとは言ってないんだけど……(汗)~(試し書き:完結)
の方も宜しければご視聴よろしくお願いします。