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例え世界が滅んでも、俺の周りは平和です  作者: The T
一章 霧の森にて五里夢中
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第五話 消えた商人、新たな商人


「ちょっと待て、一つ確認させてくれ」

「何かな?」

「三日前にこの町に着いた商人は一人だけなんだよな?」


 自分が入る時、門番の男はそう言っていた。流石にその数を間違えてはいないだろう。たったの一人なのだから。


「そうだね。アタシだけだって聞いてるよ」


 これが正しい。となると……


「なら、俺を追い抜いて行った男の商人がいるんだが、心当たりは無いか?」

「へ?どーゆーこと?」

「俺がこの町へ向かっている時、馬車に乗った商人の男が俺を追い越して行ったんだよ。今日出ていく商人はてっきりそいつなのかと」

「う~ん……知らないなぁ。少なくともアタシが来る前までは他の商人なんて来なかったらしいよ?あ、モチロン魔物騒ぎが始まってから、だけど」

「……まさか、」


 念のために門番からも確認を取ったが、同じ様な情報しか得られなかった。これで疑惑は確定だ。


「あの商人…魔物に殺されたっぽいな」

「まーそう言うことはよくあるしねー」


 確かにそうだ。そうなのだが……


「今、森の中には例の騒ぎになってる魔物しかいないんだよ。そんで、あの商人が森に入るところを俺は見た。つまりは、かなりの高確率で商人はその魔物に殺された筈だ」

「ちょっと待った。何で魔物の場所が分かるのさ?」

「《探査(サーチ)》って能力でな。魔石の位置と属性が分かる。少し前に調べたんだが、森の中には霧属性の魔石が一つだけ。大きさからしてスライムなんかじゃ無い」

「大きさまで分かるんだ?」

「魔石の大きさと、あとは純度も分かる。純度が高い程強く輝いて視えるんだ」

「ふーん……よし、決めた!」


 行商人の女──メイはぽん、と手のひらを叩く。


「キミ、一緒に来ても良いよ!魔物の場所分かるんなら優秀な護衛になる!」

「は?……ああ、そう、か。ありがたい」

「うん?もしかして何しに来たか忘れてたりした?」


 大正解である。


「んな訳無いだろ。それで、出発はいつだ?」

「うーん……雨が止んでからかな。朝に出発しないとどこかで野宿することになるし、取り敢えずは明日の朝で。まだ止んでなかったら更に次の日に延期ってことで」

「了解した」


 そうと決まればもうこんな雨の中で立っている必要は無い。

 ショージは宿代わりの待合所へ戻ろうとした。


「あっ、ちょっと待って」


 しかしメイがその背を呼び止める。


「細かい打ち合わせとかもあるし……食堂にでも行かない?」


 現在時刻は朝の6時。人によってはもう朝食を食べ終わっていてもおかしくない。

 ショージも空腹を感じていたし、依頼内容のことなら否も応も無かった。


「……お薦めの店とかあるか?この町には来たばかりでな。旨い店が分からん」

「あ、そう?ならコッチで決めるね。……この時間だとあそこかな。着いてきてよ」


 そう言って歩き出したメイの後を追うこと、10分と少し。二人は商業エリアに来ていた。


「メイ…さん?本当にここなのか?」

「あははっ!キミが『さん』だなんて似合わないなぁ。ため口で良いよ」

「いや、一応依頼主だし」

「そんなの気にするのは貴族だけだよ。冒険者はもっとガサツじゃなきゃ」

「そう、なの…か?」


 雨にも(かか)わらず多くの人で賑わった商店街の中をビシャ、パシャと歩く。周囲には武器屋や魔法屋ばかりで、食堂のしの字も無い。


「それで…コッチであってるか、だっけ?」

「ああ」

「実は数少ない商人向けの食堂がこの先にあるのさ」

「商人向け?」


 冒険者向けの安くて量のある食堂は聞いたことがあるが、商人向けは初耳だ。


「ちょっと値がはるけど美味しくて、個室で食べれるのが売りだね」

「個室?」

「そ。商談する時にこういう場所が便利なんだよね」

「なるほど……」


 確かに個室のある食堂は話し合いの場として最適だ。今からショージ達がするのも商談の一つと言えるだろう。


「ほら、ここ」

「うわ、でっけぇ」

「ふふ。こう言う場所は初めて?」

「そりゃ、低ランク冒険者がこんな高級な店行く訳無いだろ」


 目の前には普通の家二軒分程の土地に建つ、巨大な建物。珍しく2階建てだ。


「いらっしゃいませ!」


「二人何だけど…部屋空いてる?」

「部屋ですね?この時間なら……はい、大丈夫です。今日は予約がありませんので閉店まで御ゆっくりどうぞ」

「それじゃ、とりあえずは温かいスープをお願い」

「はい、分かりました。部屋はこの先の突き当たりとなっています」

「りょーかい。ありがとね」


 ショージが店の中を見回している間にメイが手早く受付を済ませ、部屋を取った。

 部屋へ入った二人はまず雨合羽を脱ぎ、ショージは椅子の背に掛けた。対するメイは……


「──《(バッグ)》」


 小さく何かを呟くと、手に持っていた雨合羽が唐突に消え失せる。


「魔法、か?」

「うん、《空間魔法》。よく分かったね?」

「いや、髪の色。隠す気あるのかよ」


 髪の色はその人が持つ魔力の属性で決まる。火属性なら赤、風属性なら緑、と言った様に。魔力属性は遺伝しないため、家族全員の髪の色がバラバラであることはザラだ。ちなみに《鑑定》した際に表れるステータスプレートの色も同じく魔力によって違う。

 そして、メイの髪は金色。空間属性だ。


「うん?髪は茶色く見えてるはず……あっ、髪止め着けて無いんだった!どうせ雨合羽被って見えないからって油断してた……」

「お、おい。大丈夫か?」


 相当ショックだったらしく、机の上に突っ伏している。そんなに知られたく無かったのだろうか。……それにしては目の前で魔法を使っていたのだが。


「ああいや、うん。キミには元々話すつもりだったから良いんだよ。ただ…お店の人とか別の商人に見られたらマズいんだよね。最悪もうここで商売出来ないかも……」

「何でだ?それくらい大丈夫だろ」

「空間魔法は貴重な上に危険だからねぇ…関税払わずに検問抜けたり、物盗んで逃げたりとか。色々できるんだよ。それこそ、国が保護って名目で捕まえに来るくらい」

「うわぁ」


 自分も似たような状況であるショージにとって他人事ではない。珍しい【能力】でこれなら、殆ど使い手の居ない【固有能力】では指名手配レベルかもしれない。


「ま、今はそんなこと置いといて…打ち合わせしよっか」

「……いやちょっと待て。メイは《空間魔法》使えるんだよな?なら別に俺を雇わなくても目的地に転移出来るんじゃないのか?」


 当然の疑問だ。実際、この町へ来るときはその手段を使ったのだろう。ショージを追い抜かずに、護衛を雇うこともせずに移動していたカラクリはそこにあった。


「うん、まあそうなんだけどね……あんまり何回もやってると怪しまれるから、たまにはこうやって普通の商人と同じ様にしないといけないんだ。それに……」

「それに?」

「今回の魔物の一件の中できちんと冒険者雇って商売できたら良い実績になるからね。今後の少しくらいの無茶は誤魔化せるようになる」

「成る程な…」


 人それぞれの行動原理があり、他人には不可解に見えることもある。もしかしたらショージもそう見られているかも知れない。…町に来て僅か数日で王都にとんぼ返りする所とか。


コンコン


 ドアを叩く音がした。


「失礼します。スープをお持ちしました」


 先程の店員の声だ。少し早い気もするが、高い店ならこんなものかもしれない。


「どうぞ~。さあ入って入って」


 メイが招き入れ、数分後には食事が始まった。


「あ、スープとパンだけじゃあれだし肉も追加で頼んどいたから」

「知ってる。目の前で注文してたろ」

「何も言わないからてっきり聞いてないのかと」

「こういう店の雰囲気に慣れてねーだけだから」

「あ、そう?それじゃしっかり楽しんで行ってよ」

「精々そうさせて貰うよ」


 暫くは食器が擦れ合う音だけがカチャカチャと響く。


「にしても男と二人きりで食事かぁ。……デートみたい」

「っっ!」


 メイの発言にブフォッ!!どショージが吹き出した。

 それを見てメイはカラカラと笑う。


「な、何だよいきなり…」

「ゴメンゴメン!冗談だって。キミが余りにも喋らないからさ。自分から普通に話しかけるのはつまんないし」

「だからってなぁ」

「さ、依頼(しごと)の話しよっか」

「聞けよ」

「あっはっは。……やだ」


 ふざけつつも話し合いは続く。

実験的にゴールを特に決めずに二人に会話させてみた。中々終わんなくて途中でぶった切った訳ですが。

 何この子達……延々と話してる…(困惑)

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