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例え世界が滅んでも、俺の周りは平和です  作者: The T
一章 霧の森にて五里夢中
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第三話 いつか、依頼を

 夢を見た気がする。

 子供の頃の夢だ。

 魔法の力で何でもできると、根拠もなく信じていた頃の夢だ。

 ああ、そうだ。夢だ、幻だったんだ。

 この世界には奇跡のような『魔法』なんて無くて、今ある手札で何とかするしかない。

 あの頃の俺はそれを知らなかった。

 そのせいで──





「ハァッ……!ハァ、ハァ……」


 ショージは息を荒げながら飛び起きた。

 見覚えのない部屋だ。……まあ、来たばかりの町だから当たり前だろう。

 ベッドの代わりに長椅子が使われていて、少々体が痛い。


「──《探査(サーチ)》」


 部屋のすぐ外に反応がある。誰かがそこに居るらしい。

 部屋に一つしかない扉を開ければ、港で話したあの男の姿が。


「お、目ぇ覚ましたか」

「ああ。……俺は気絶したのか?」

「おう。疲れてたんじゃねぇのか?話してる途中で突然倒れてな。慌ててここに運んだって訳だ」


 一人旅というのは疲れる物だ。常に気を張る必要があるし、野宿の準備も一人で行わなければならない。

 ついでに言えば、夜に寝るのは危険が大きい。ショージは《平和世界》でなんとかなるが、普通なら魔物に襲われてあっさりと殺られる。そのショージだって、寝ている間に魔力が尽きれば《平和世界》は切れてしまう。睡眠時間をあまり摂れていないのが現状だ。


「あー……疲れてるのは否定できないな。今日この町に入るまでは一人旅だったし」

「一人旅だぁ?随分と危ねぇことやってんな。……今日入ったっつったか?」

「ああ、そうだが」

「宿はあんのか?」

「宿?いや、まだ決まってないな」

「ならここに泊まっていけよ」

「ここに?と言うか、ここどこだ?」


 改めて周りを見渡せば、そこそこ広い部屋に長机や長椅子が並んでいる。何かの待合所だろうか。外へ出る扉は無く、代わりに暖簾(のれん)がかけられた出入口がある。


「ここはまぁ、待合所だな。船の」

「船?」


 それはまさか、ショージが乗りたがっていた……


「お察しかも知れんが、ちょっと前まで魔大陸行きの船を出してたのは俺だ」

「マジかよ……」


 道理で条件を詳しく知っていた訳だ。本人だったのだから。


「今は俺のことは良いだろ。で、どうする?飯は出ないが安全は保証するぞ」

「料金は?」

「要らねぇ、と言いたい所だが……そうか。それがあったか」

「おいおい、忘れてたのかよ」

「元々ボウズを応援しようと思って言ったことだしよぉ……んじゃ、あれだな。出世払いだ。いつかボウズが魔大陸に行く依頼を出す時、俺に仕事をくれ」

「そんなんで良いのか?」


 はっきり言って、異常だ。

 冒険者という仕事は死と隣り合わせ。そんな相手に出世払いなど、宝くじを買う様な物だろう。

 ……ああ、宝くじ。そう考えればそう悪くも無いのかも知れない。


「さっきも言ったろ?俺は応援してんだ。そのくらいの歳で魔大陸っつったら……あれだ。友達か誰かを助けに行くんだろ?」

「……ありがとう」

「気にすんな。それじゃ、いつになるかは知らんが、依頼が出るのを待ってるぞ」

「楽しみにしててくれ。すぐに出すから」



………………

…………

……



 と言う訳で。


「何か良い依頼は無いか?」


 次の日の朝、ショージの姿はギルドの中にあった。

 早く依頼を出す為には早く冒険者ランクを上げること。その為にはギルドからの依頼を多くこなさなければいけない。

 ……強い魔物を倒せば飛び級することもあるが、そこまで危険を冒すこともないだろう。


「依頼、ですか?」

「ああ。早くランクを上げたい」

「……今、何時だと思ってます?」

「?昼の10時だが」


 外には綺麗な青空が広がっていることだろう。


「他の冒険者の皆さんは朝日が昇った頃にもうここに来て、依頼を受けて行きましたよ」

「は、はぁ……」

「要するにですね、もう依頼は残ってません」

「はぁ!?」

「ただでさえ出てくる魔物が少なくて依頼が減ってるんですから、この時間まで残るわけ無いじゃないですか」


 ショージは焦った。完全に想定外だ。今までまともにギルドを利用してこなかった弊害がここで来た。金を稼ぐだけなら常設依頼のゴブリン討伐で十分だが、それではランクを上げる為の評価はあまり貰えない。やはり先を急ぐからと言って依頼をほぼ受けないのは不味かった様だ。


「ランクを上げるなら王都の方が良いと思いますよ?あっちは人も多いから依頼も多いですし」

「……昨日王都からここに来たばかりなんだが」

「あ、そう言えば船はどうなりました?乗りたい船ありました?」

(しばら)くは出ないみたいでな。何年かかかりそうだ」


 ショージは魔大陸について話さないことにした。あまり同情されるのも困る。

 魔大陸って何のことかって?それはまたいずれ、話すべき時にでも。


「それなら王都に戻るのも問題は……ああ、そう言えば馬車止まってるんでしたね」

「騒ぎが収まるまではこの町で待機だな」

「あ、騒ぎで思い出しました。実は一つ依頼が残ってたんですよ」

「あるのか!?」

「『謎の魔物調査・討伐』って依頼なんですけど……」

「え、それ俺が受けても大丈夫なのか?」

「冗談です。今までの傾向からBランク以上が推奨されてますね」


 がっくりとショージは肩を落とした。


「やっぱダメか……」

「ちなみに王都に行ける馬車があるとしたら使いますか?」

「王都に?あー、そうだな……」


 無料(タダ)で泊めてもらうのも申し訳ないから、ここに留まるよりは王都の方が良いだろうか。

 その旨を伝えると、


「それじゃまた明日、来てください。もしかしたら一つだけあるかもしれません」

「え、マジで?」

「あくまで可能性、ですが。ついこの前──ショージさんが来た前の日ですね。その日に町に来た商人さんが帰る時、一緒に乗せて貰えるかもしれません。あの人、護衛を雇ってませんでしたし」

「その手があったか……よろしく頼む」

「ええ。それでは、明日の朝にまた」

「応、じゃあな」


 そう告げてギルドを出て、ショージははたと気が付いた。


「結局今日は依頼無しじゃねーか」


 このままでは今日の晩飯の金も足りなくなる。

 それは困ると、ショージはゴブリンを狩る為に町を出た。

 《探査》を使えばゴブリンくらい楽勝で見つかるだろう。


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