始めに:願いなさい
自分は臆病者である。
そう思ったことは無いだろうか?
クラスのイジメは見て見ぬふりをする。どうせ自分が介入しても止まらないのだから。
では、自分の手によって何かを成せるとしたら?
臆病者から一躍救世主になれるチャンス。
それを与えられた時、果たして人はどうするのだろうか。
──ここに1人の少年が居ます。
目の前にはトラックと、少女。
事故と言うよりは自殺なのだろう。少女の目に恐怖は無く、その場から動こうともしない。
少年はそれを見て……走った。
誰もが諦める状況で、ただ1人。
──おめでとう。君はこの瞬間、臆病者では無くなりました。勇者と愚者、どちらなのかは定かでないけれど。
少女は少年を見て焦った。他人を巻き込むつもりなど無かったのだから。
自らを拒絶するように突き出された両手を見て、少年はより一層強く踏み込んだ。少女にそんな顔をして欲しく無かったから。
──さて少女。少年は覚悟を済ませました。貴女は、どうします?
少女はその時初めて、少年の目を見た。
少年は世界が遅くなっている様に感じた。そんな中で目が合って、
──もちろん、死ぬ覚悟じゃ無いでしょうね?
救いたい。そんな想いを受け取った。ああ、こんな世界にもまだ救いはあったのか。ならば、自分は……
他人の考えを読み取るのは苦手だ。でも、少女にもう死ぬ気が無いことは分かる。だから、自分は……
──成る程!素晴らしい!!最高です!!!これならば、或いは……
貴方と生きたい。
貴女を救いたい。
──神を任せる事が出来るかも知れません。
少年の記憶は此処で一度途切れた。