異国での商いと、直剣での刺突と
「流石だ、レアン」
「……なかなか」
「女神共々、一回戦突破ですね」
勝利したレアンに対して、ティート達は口々に言った。
席に着く前に、彼らも対戦表は見ている。確かこの後、次の次がサムエルの試合だ。
「日差しがきつくなってきたから、果実水でも飲もう」
そう言うと、ガータは売り子を探して手招きした。陽光や気温、あと対戦を見て声を上げるからと複数の子供や少年が飲み物や軽食を売っている。
「腹が空いているのなら、揚げ菓子もあるぞ。ルゲマートと言って小麦粉の生地を揚げ、果汁をかけてあるから甘い」
「……気に、なる」
「じゃあ、果実水を三つとそのルゲマートを一人分」
「まいどあり!」
ガータの説明に、ミリアムが無表情ながらも灰色の目を輝かせる。それにティートが頷いて言うと、売り子の少年がニッと笑って果実水が入っていると思われる皮袋を三つと、大きなレザン(葡萄)の葉に包まれた揚げ菓子を渡してきた。
ガータが払おうとしたが、その前にティートが財布を出して支払った。早速、口に運んだミリアムが次の瞬間、美味しさに頬を染めて目を輝かせる。
「……売り子は、彼らの小遣い稼ぎですか?」
「ああ。気になるか?」
「そうですね……商売として、面白そうだと思ったのですが。仕事を取ることになるのなら、別の商いを考えようかと」
「商い? アジュールでか?」
「ええ。女神が優勝して、定期的に香辛料を買うようになったら……ルベルや帝国の商品を売るのもですが、この武闘会を観ること自体を商いとするのも良いかと」
「それも、商いなのか?」
「ええ。僕の故郷はルベルですが、隣の国でこんな派手な催しが開かれているとは知りませんでした」
物だけではなく、人を動かすことでもお金は動く。それはティートが、ロッコの街興しをして知ったことだ。
「……気が早い」
「そうですか? 四年は、あっという間ですよ? ルベルや帝国から人を呼ぶのなら、馬車や宿泊施設も考えないとですし」
そもそも優勝しないと思っているガータが言うのに、ティートは微笑みながら具体的な話をした。表情からどうしてそこまで、と思われていると解る。ティートとしてはどうしても何も、ただエリの勝利を確信しているたけなのだが。
「あ、サム」
そこで、ミリアムが闘技場へと登場した相棒の名前を呼んだ。
それにティート達も会話をやめ、サムエルの闘いへと目をやった。
※
「お前らよそ者にこれ以上、武闘会を荒らされてたまるか!」
向き合って、試合開始の声がした途端、そんな風に吠えられた。
控え室で見た、こちらを小馬鹿にする表情は浮かんでいない。エリとレアンがあっさりと勝ったことで、今更ながらに焦ったのだろう。
「別に、荒らす気はねぇよ」
「うるさいっ」
「おっと」
サムエルが答えたら、怒鳴り返されて男が曲刀を構えて突っ込んできた。
エリのように、早さで攻撃を繰り出すのもありだが――サムエルは、まず力勝負とばかりに男の剣を剣で受けた。そして弾くのではなく、逆に自分から体を退きつつ構えた剣で男を突こうと前へ踏み出す。
「ひぇっ!?」
「お……でも、甘い」
「どわっ!」
咄嗟に掲げた曲刀で自分の剣の切っ先を受け止めた男に、サムエルは感心して声を上げる。
だが、防御でいっぱいいっぱいになったようなのでサムエルは男の脛を足で蹴って払った。それから、たまらずその場に倒れ込んだ男の顔の真横にもう一度、今度は両手で柄を握って垂直に大剣を振り下ろした。
頬すれすれにある刃に青ざめ、硬直した男の肩にサムエルは容赦なく足をかけて動きを封じる。
「あ、降参しないんだ。じゃあ」
「まっ、待て……降参! 降参だっ」
そしてのんびりとした口調でサムエルが三度、大剣をふりかざすと男は絶叫するように降参を告げたのだった。




