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思い込みと無知と

 恵理の対戦が終わった途端、闘技場を揺らさんばかりの大歓声が起こった。

 そんな中、ガータはギギ、と音がするような動きでティート達を見た。


「……何だ、彼女は?」

「女神です」

「エリ様」

「そうではなく……いや、お前達にはそうなんだろうが……」


 ガータからの問いかけに、ティートとミリアムはそれぞれキッパリと答えた。それはその通りではあるが聞きたいことと違う為、言葉に詰まったガータにティートが言葉を続ける。


「……元冒険者で、剣や体術もですが魔法も使えます。だから『お守り』の話の時、自分は使わないと言ったのですよ。ああして、己の身を守れますから」

「そうなのか」

「女神に、賭けたくなりましたか?」

「……そうではない。それに魔法にああやって対抗出来るとは解ったが、剣の勝負となるとやはり女性には荷が重いと思うしな」

「同じ女性のあなたでも、そう思われるのですか?」


 ティートの質問に、ガータが少し困ったように緑の瞳を泳がせる。そして赤褐色の猫耳を伏せると、ガータはボソリと呟いた。


「女である前に、私は獣人だ。いくら強くても、人間の彼女とは違う……私が優勝したからと言って、彼女が勝てるとは思えない」

「……女神を、心配してくれているのですね。ありがとうございます」

「ああ、いや」

「ですが、女神のことをあなたの思い込みで判断しないで頂けますか?」


 そう言ったティートに、ガータが軽く目を見張る。

 それにふ、と眼鏡の奥の瞳を細めたかと思うと、ティートは話の先を続けた。


「……とは言え、あなたにはあなたの物差しがあるでしょう。だからこの武闘会で、あなたのその目で女神を見て下さいね」

「う、うむ」

「お願いします……あ、次はレアンさんですね」

「賭けなかったけど、応援はする」


 言いたいことを言って話を締め括ったティートと、何と言うか自由なミリアムに――何か言うことは諦めて、ガータは促されたままにレアンの闘いへと目をやった。


 ※※※


 先程、ガータやエリをけなした男は背こそ高いが、細いというか体の厚みはない。

 だから、格闘ではなく何か武器を使うのかと思っていたが――かぎ爪を、手につけていた。成程、あの手で殴られれば痛いどころではないだろう。


(猫背でだらけた雰囲気だけど、下半身はしっかりしてる)


 そうレアンが思っていると、開始の声と共に男がレアンへと駆けてきた。それから長い腕を振るい、レアンへと殴りかかってくる。


「っ!」

「流石、獣はすばしっこいな」


 いちいち馬鹿にしながら、また間髪入れずに腕を振るう。かぎ爪もだが、拳も当たれば結構、ダメージがあると思われる。流石に、こういう大会に出るだけあって最低限は闘えるようだ。

 しばらくは、相手の動きを知りたくて避けていたが――数回、そうやってやり過ごすと、レアンはおもむろに男の刃つきの拳を左腕で受け止めた。


「なっ!?」

「獣は、すばしっこいだけじゃない」


 身体強化を使っているので、受け止めた左腕は傷ついていない。

 一方、受け止められた男の方は、獣人『ごとき』が身体強化を使えるとは思わなかったのだろう。確かに使えるものは少ないが、それでも魔法や身体強化を使って冒険者などになる者もいるのだが。


(そう言えば、アジュールはあまり魔物が出ないから、冒険者自体いないって話だっけ)


 知らないからこそ油断があったのだろうが、何はともあれこの好機を逃すつもりはない。

 それ故、レアンは男が離れる前に空いた右手で男の頬へと殴りつけ――吹っ飛んで、地面に転がったところで馬乗りになり、相手が動けない状態で再び男へ拳を振るった。


「これは、ガータ姉の分」

「これは、店長の分」

「これは、俺の……」

「こっ……降参! 降参だっ」


 男にだけ聞こえるような声で言いながらレアンが殴っていると、男が悲鳴のような声で降参を告げた。

 とりあえずガータとエリの分は殴れたので、レアンはピタリと拳を止めたのだった。

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