武闘会の前に
次の日、武闘会初日。
昨日のようにホッとする朝食を頂いた後、恵理達はガータと昨日、申し込みをしてくれたティートに連れられて歩いて武闘会会場へと向かった。昨夜は、入浴時に持っていたリン酢を使ったのでガータも含めて髪がツヤツヤになっている。
大きい建物なので、歩いている間も見えはしている。けれど住宅街を過ぎ、並ぶ露店を通過した後、到着したところで恵理は思わず呟いた。
「コロッセオ……」
「んっ?」
「いえ、何でも」
昨日、ティートから『円形』と聞いていて、もしやと思っていたが――映画や漫画で見たことのある、円形闘技場そのままの建物を見て、恵理は思わず呟いた。アジュールではそう呼ばないのか、ガータが不思議そうに振り返るのに笑って誤魔化す。
「応援、してる」
「おう、見ててくれ……これ、ありがとうな。ミリー」
「ありがとうございます」
「ん」
これから、恵理達は参加者用の控室に行くので観客となるミリアムとティート、ガータとは別行動になる。他の対戦者の試合を見ることは出来るらしいが、それも観客席からではなく会場の隅かららしい。
だからと両手で拳を握り、無表情ながらもエールを送るミリアムに、サムエルとレアンは笑って首から下げた白い魔石を見せた。それに、ミリアムも安心したように灰色の瞳を細める。
(風属性の魔力を込めたのね)
害意に反応し、風で持ち主を包むので『お守り』としては効果的だろう。もっとも、己の魔力を魔法として放出出来るのは一部の人間だ。あくまでも万が一、念の為の処置である。
(今回使わなくても、腐ったり減るものじゃないし。特にサムエルは、冒険者として危険な依頼を受けることもあるし)
「レアン達はともかく、店長はとにかく無理するな。女性だからと言って、手加減などして貰えないからな」
「はい」
そんなことを考えていると、ガータがそんなことを言ってきた。
多少、闘えるところを見せてもやはり心配されているらしい。とは言え、反論するのも何なので恵理は素直に頷いてみせた。
「女神」
「えっ?」
「女神は、いつも頑張っているので……今日も、その頑張りを見守らせて頂きますね」
ティートが、恵理にそう言って眼鏡の奥の双眸を細める。美形の微笑みだけでも眩いのに、紡がれた言葉に恵理は感心した。
(ミリアムも、無意識に言葉を選んだみたいだけど……頑張れって、悪気はないと思うけど。今まで頑張ってなかったのかって、落ち込むこともあるのよね)
くり返すが、言っている方に悪気はないと思うので素直に受け取るようにはしている。
している、が――こうして全肯定されると、やっぱり嬉しい。女神呼びに普通に返事してしまったのは何だが、それこそもっと頑張って応えたいと恵理は思った。




