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うっかりと、恵理のこだわり

 しばらくするとミリアムも起きてきたので、恵理達は朝食兼昼食を食べることになった。

 昨日と同じ、食卓ではなく靴を脱いで絨毯に座り、並べられた料理を食べるスタイルだ。床に座るだけなら日本人である恵理は慣れているが、テーブルがなく絨毯の上に料理の乗った皿を並べるのはやっぱり異世界と言うか、異国だなと思う。

 ちなみに、野営ともまた違うのでサムエル達は落ち着かないようである。昨日は風呂上りで寛いだが、明るい中だとそうもいかないらしい。そんな彼らに、恵理は声をかけた。


「楽にしないと足、痺れるわよ……さあ、ご飯いただきましょう?」


 それから恵理は出された平らなパンに、焼いた茄子をペースト状にしたディップをつけて食べた。野菜をたっぷり使い、オリーブオイルとレモン汁で味つけしたサラダも美味しい。そして、味噌汁ではないが豆で作られたスープを飲んでホッと息をつく。


(昨日は肉と香辛料メインだったけど、今日は野菜メインね)


 勿論、香辛料も肉も美味しいのだが、三食ボリューミーだともう若くはない恵理だけではなく、レアン達若者も胃や舌をやられると思う。だが、こうやって緩急があるのなら武闘会のある数日間、快適に過ごせるだろう。


「あ、美味しい……」

「ホッとしますね」

「俺はもうちょい、ボリュームが……あ! このサラダ、パンで巻いて食べていいっすか?」

「サム……まあ、美味しそう、ではある」

「ああ、大丈夫だ。好きなように食べてくれ」


 レアンとティートも同様だったらしく、我知らず頬を緩めている。

 一方、サムエルは食べ応えにこだわった結果、サラダロールのように食べることを思いついたらしい。昔はサムエルは野菜嫌いだったが、大人になったら食べるようにはなった。ミリアムは野菜はむしろ好きだが、同じ味が続くと飽きる傾向にある。それ故、ガータの許可が出た途端、二人は同じように平らなパンでサラダを巻いて、恵方巻のようにかじりついていた。

 そして一通り食べ終わり、食後に出されたのはコーヒーだった。とは言え、恵理の知っているようにフィルターを通しているのではなく、コーヒーの粉を煮込み香辛料を入れて飲むものだった。チャイ(茶葉を煮込んでスパイスを入れる)は日本で飲んだことがあるが、これはこれで美味しいと思う。

 皆が一息ついたところで、ティートが手を挙げて口を開いた。


「武闘会の決まりについて、聞いてきたことを説明します……ガータさん、もし間違いがあったら教えて下さい」

「ああ」

「では……明日からの大会には、女神達を入れて十六人参加します。格闘でも武器でも参加可能ですが、魔法は強化魔法まで。それ以外の魔法を使ったら、試合は中断となり退場……だ、そうですが」


 そこで一旦、言葉を切ってティートはクイッと眼鏡のブリッジを上げた。


「戦闘にのめりこみ過ぎて『ついうっかり』魔力が暴走した場合は、反則にならないそうです。あと、たとえ試合に負けても王族に顔は売れるので、参加する魔法剣士もいるそうです」

「へぇ……」

「……それなら、私も」

「だから、見るからに魔法使いは駄目なんだ」

「……むぅ」


 ティートの説明に恵理はあいづちを打ち、ミリアムが再度武闘会参加を主張する。けれどガータが再び制止し、ミリアムは唇を尖らせた。

 そんなミリアムの頭を撫でて、恵理が気になったことを尋ねる。


「その『うっかり』暴走した魔法を、魔法で跳ね返すのは? 反則になります?」

「……いや、剣で反撃しても正当防衛だから、魔法で駄目と言うのはないだろう。ただ、魔法を使えるのはごく一部の人間だ。だから、両方が魔法を使えるというのはありえないと思う」

「だったら、ミリー? レアンとサムエルに、魔石で『お守り』を作ってあげたら?」

「っ! んっ」


 恵理の言葉にガータが戸惑いつつも答え、ミリアムは灰色の瞳を輝かせてコクコクと頷いた。魔石は燃料のような扱いだったが、ミリアムは自分で魔力を込めるようになってから、むしろマジックアイテムのように使うことも出来るようになったのだ。害意を向けられた時には、持ち主を守るように意識して魔力を込める。そうすると大抵は一回きりだが、その魔石を身に着けているとちょっとした怪我や魔法攻撃から身を守れるのである。それを恵理とミリアムは『お守り』と呼ぶようになっていた。

 ……そう言えばミリアムやアレン、更にグイドなど周りも魔法を使える者がいたので忘れていたが、ガータの言う通り普通は魔法を使えるのはごく一部の人間だった。


「お前には、護符はいらないのか?」


 そしてガータが尋ねてきたのに、恵理は笑って答えた。


「ええ。あ、目には目を、魔法には魔法をなんで『うっかり』がなければ使いません。だから、安心して下さいね」

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