異文化(風呂)体験
服を脱いだところで、控えていた使用人から大きな布を渡される。
タオルかと思ったら、バスローブだった。木綿で作られていたことに驚いたが、以前ティートから元々、ルベル公国の木綿もアジュール国から輸入したのだと思い出した。肌触りの心地好さに、たまらず頬が緩む。
続いて、いくつか並ぶ長椅子の一つに座るよう促された。そして座ったところでお湯をかけられ、別の小部屋に連れていかれた。
「サウ……蒸し風呂?」
「ああ、ロッコにもあるんだったか」
「ええ」
「基本、集落はオアシスのあるところに作られるが、水も無限ではないからな。アジュールでは湯に入るのではなく、蒸し風呂が一般的だ。更に、垢すりと揉み療治がついてくる」
「揉み療治?」
「口で説明するのは面倒だ。とにかく体験しろ」
「……そうですね」
聞き慣れない言葉に恵理が首を傾げると、ガータがキッパリ言い切った。悪気がないのは解るし、確かにその通りである。
だから、と恵理が頷くと――そんな彼女のバスローブの腰の辺りを、ミリアムが掴んできた。
蒸し風呂は、平民の文化だ。貴族は、かつての勇者の影響もあり浴槽に入るのが一般的である。おそらくミリアムは風呂とだけ聞いて飛びついたのだろうが、慣れない形式にいつもの無表情が更に固まっている。
「大丈夫……って、私も体験してみないと解らないけど。一緒に、やりましょう?」
「……ん。エリ様と、一緒」
恵理の言葉に、ミリアムが自分に言い聞かせるように呟いて頷く。それから恵理は、バスローブを掴んだままのミリアムを連れてサウナに入った。
アジュールのサウナはロッコのドライサウナとは違う、蒸気がモクモクと出ているスチームサウナだ。十分から十五分で汗を流した後、長椅子のあった部屋に戻ってうつ伏せになるよう言われた。バスローブを敷いて横たわると、髪や体を洗われて垢すりをされた。
そしてお湯で流しサッパリしたところで、最後は良い香りのするオイルを塗られてのマッサージだった――なるほど、揉み療治とは言い得て妙だ。
体を洗われることは貴族ではあるらしいが、垢すりにはミリアムは目を白黒させていた。しかし、マッサージが終わるとすっかりリラックスしたようだ。元々、肌は綺麗だが更にしっとり潤っている。
(これって、エステじゃない……って、ことは!)
大浴場の貴族フロアでやると、最高のおもてなしになるのではないか。
そう思い、ティートに伝えようとした恵理だったが、用意された衣装を見て固まる。
「……ベリーダンサー?」
いや、確かに言われてみればビキニっぽい胸当てとズボン、あるいはスカートを穿いて歩いていた女性もいたが。
鮮やかな色と露出の多い衣装に、恵理とミリアムは怯んだ。そして「着慣れた服が良い」と言って洗って貰った服を風魔法で乾かし、恵理は付いてきたミリアムと共にティート達の元へと向かった。
 




