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旅立ち、そして

 同じ日の朝六刻。グイドの旅立ちに先立って、教会の鐘が鳴る中、恵理達はアジュールに旅立つことにした。

 ティートが用意した馬車は、幌馬車だった。食料や毛布などは、ティートのアイテムボックスに入っている。恵理とレアンとガータ、そしてサムエルとミリアムとティートが乗っても、まだ余裕がある。


「ミリー? 武闘会に参加出来ないなら、ついて来なくてもいいんじゃねぇ?」

「確かに……こんなに小さくて細いのだから、無理するべきではない」


 サムエルもだが、ガータも真剣な表情で止めている。同性だが、いや、逆に同性だからこそガータは女性に対して過保護な気がする。

 けれど、ミリアムの決意は固かった。


「エリ様とサム、応援する」

「あー……ありがとな。でもお前、体力無いから。移動中は、出来るだけ寝てろよ」

「私も、武闘会には出ないからな。辛くなったら手を貸すから、遠慮なく言ってくれ」

「ん、ありがと」


 そう言って、サムエルはミリアムの頭を撫でた。そしてガータも続けたのに、ミリアムは素直にお礼を言った。

 それを見ていて恵理に、ティートが声をかけてくる。


「途中、アジュールまで駆け続ける為に馬は替えていきますが、御者につき合わせるのも申し訳ないので、雇わず交代で馬を走らせます。本当なら、武闘会に備えて体調を万全にして頂くべきなんですが」

「ううん。そもそも間に合わないと、話にならないし……休むのは、アジュールに着いてからも出来るわ。それに、幌とこれだけ広さがあれば移動中に眠れるし。むしろありがとう、ティート」

「女神……!」


 労うと、ティートが祈るように両手を組んで眼鏡越しにキラキラした瞳を向けてきた。見た目は美人に育ったが、子供の頃から変わらない。

 温かい気持ちになったのと、サムエル達のやり取りにつられて、恵理はティートの黒髪を優しく撫でる。その横を通り過ぎ、馬車に向かった恵理はティートが感激のあまり、涙ぐんでいたことを知らずにいた。更に、二人のやり取りを見ていたガータがサムエル達に尋ねていたことを。


「おい、あいつは彼女に対してはいつもああなのか?」

「ああ。師匠を信頼って言うか……妄信? 崇拝? してるからな」

「ん」


 恵理からの頭ポンポンの余韻に浸る為か、まずティートが御者を引き受ける。

 それから幌馬車を走らせて、食事兼休息の時以外は恵理達は交代で御者をし、馬車の中で仮眠を取った。ちなみに、食事担当は恵理である。


「美味しいです、女神!」

「ありがとうございます、店長!」

「美味いです、師匠っ」

「ん、最高」

「……これだけ美味しいものを作れるのなら、やはり怪我をするようなことはしない方がいいんじゃないか?」


 タイ米を使って、どんぶりメイン。ところによりお粥や肉巻きおにぎりにして出してみた。概ね好評だったが、ガータは未だに恵理が闘うことを心配しているのか、事あるごとにそう言ってくる。気遣ってくれているのは解るので、恵理はその都度、笑って返していた。

 そんな恵理とサムエルとミリアムは、冒険者であり旅や野宿は慣れっこで。ティートも商いで旅をするので、意外と涼しい顔で馬を扱っている。

 だから、旅慣れていないと思ったレアンとガータのことが心配になったが――体力自体はあるらしく、不平不満はない。

 そんな訳での弾丸ツアーだったがアスファル帝国を出て、通過するだけだがルベル公国を馬車で駆け抜ける。

 そして冬なのに、まるで雪がないだけではなく暖かい風を感じ。

 ……そもそも、砂塵や土埃が舞い上がるので幌についている窓から、景色が黄色く見えるようになった頃。

 旅立ってから一週間後、恵理達はアジュール国に到着したのである。

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