闘って思い知る
冒険者パーティーで、一緒に依頼を受けることはあった。しかしグイドは、エリと一対一で打ち合いをしたことはなかった。
(それを俺は、エリが俺を怖がっているからだって思ってた)
依頼で、エリが他の女性冒険者のようにもたついたことはない。けれど、それは仮にもBランク(冒険者としては一人前として扱われる)だからだと軽く考えていた。今にして思えば、そうやってエリを頭から馬鹿にして下に見ていたのだろう。
だが、しかし。
「チッ……」
向き合ったが、エリはすぐには打ち込んでこなかった。
けれど、一方で彼女には全く隙がなく――焦れて、先に攻撃したのはグイドだった。
だが、それをエリは最低限の動きで避ける。それがまた腹に立ち、舌打ちをしたグイドが突進して木剣の切っ先を下から上へと振り上げると、更に高く跳んだエリにまたしてもかわされた。
しかも、エリはかわしただけではない。そのまま、己の体重をかけて頭上から切りかかってくる。
咄嗟に木剣で受け止めて薙ぎ払ったが、後方に跳びがてらエリはグイドの顎を蹴り上げた!
「……がっ!」
たまらず声を上げ、そのまま背中から倒れ込んだグイドの前で、エリは後方へと宙返りをして綺麗に着地した。それに一瞬見惚れ、次いで我に返って立ち上がろうとするがエリの方が早い。グイドへと突進し、彼の喉元に木剣の切っ先を突きつけると、動けなくなったグイドの顎を持ち上げて言った。
「はい、私の勝ち」
「何、で……これだけ強いのに、Bランクなんだよっ!?」
「そんなの、私の勝手でしょう?」
出前として雇われたグイドだったが、エリは自分が異世界からの転移者だとは伝えていない。ヴェロニカ同様、下手に知って巻き込むことを防ぐ為だ。
だがそれをグイドに伝える気はないので、エリはそれだけしか言わなかった。代わりに、彼の視線の先で挑発するように口の端を上げて言う。
「約束よ。グリエスクード領に行きなさい」
「俺、は……っ」
「……普段が、仏頂面とは言わないけど。休みの日に、冒険者として依頼受けてる方が楽しそうよ?」
「っ!」
「帝都で、パーティーを崩壊させたことへの負い目? それとも、ギーヴルを倒したことで声がかかったけど、その時に怪我したことへの引け目?」
体制的に目を逸らせないが、かつての彼なら舐められまいと言い返していただろう。だが、反論出来なかったのは今のグイドにはそれが虚勢でしかなかったと解るし、何よりエリの言葉が図星だからだ。
……そんなグイドの前で、エリがふ、と笑みを消す。
「くだらない」
「なっ!?」
「くだらないでしょ? 冒険者として生きるなら、ロッコみたいな田舎にいるよりグリエスクード領に行った方がずっと良い。それこそ向こうは、あんたの負い目や引け目を了解した上で声かけてるのよ?」
「……あ」
「まあ、その分こき使われるかもだけどね……それでも、好きでしょう? やりたいんでしょう?」
「エリ……」
「私も、好き勝手やるから。あんたも、好き勝手やってちょうだい……今度こそ、ね」
それは以前も、エリに言われた言葉だった。
そしてエリはグイドから木剣の切っ先を離し、獣人の女性――ガータへと顔を向けて、声をかけた。
「どうでしょう?」
「……確かに、少しは動けそうだな」
「じゃあ!」
「参加を認めるだけだ。怪我をしても知らんぞ」
「ありがとうございます!」
それから、先程までグイドへと向けていた笑みとはまるで違う、嬉しくてたまらないという笑みをガータに向けた。
(ちぇっ……本当に全然、眼中にねぇんだな)
解っていたつもりだったが、改めて思い知らされた気がする。
嫌われているなら、まだマシだ。こっちは告白したと言うのに、全く意識されていない。
それでも、多少でも関わりがあったせいかエリはグイドの背中を押してくれた――いや、そんな優しいものではなく、容赦なく蹴り飛ばされた。物理的にも、精神的にも。
深い溜息を吐きながら、グイドは訓練場の床に寝転がってポツリ、と呟いた。
「……解ったよ、やってやる」




