恵理の言い分
闘えることを示すには、実際に見せれば良いだろう。
そう思い、冒険者ギルドの訓練場に向かおうとした恵理に、ガータだけではなくサムエル達、そしてレアンもついてきた。更に訓練場を借りようとしたところで、話を終えて降りてきたらしいルーベルやティート、それからヴェロニカ達とも鉢合わせする。そんな訳でガータに見せるだけのつもりが、随分とギャラリーが増えてしまった。
「師匠? 俺が相手しますか?」
訓練用の木剣を手にした恵理に、サムエルが声をかけてくる。確かに、Aランクのサムエル相手に闘えば実力を示すことが出来るだろう。だが、しかし。
「……グイド?」
「お? ご指名か?」
「あなた、私に隠してることあるわよね?」
「え」
恵理の問いかけに、戸惑いではなく驚きに固まったグイドへ、恵理は話の先を続けた。
「ルビィさんから聞いたわ。グリエスクード辺境伯から、冒険者としてのお誘いがあったって……そして、それを断ったって」
「何だよ……俺が決めたことに、文句つける気かよ?」
「あんたが店を言い訳に断らなければ、私だって口出ししないわ」
「うっ……」
そう、単に「行きたくない」や「ロッコが好き」なら、別に恵理も反対しない。しかし、グイドは「務めている店を辞められない」とどんぶり店を理由にしたのだ。
……次第に据わる目をグイドに向けて、恵理は更に言葉を紡ぐ。
「そりゃあ、私は好きにすれば良いって言ったし、どんぶり店で働きたいって言ったから出前をお願いしたわ。だけどね? あんた、冒険者って仕事自体も好きよね? 休みの度に、依頼受けるくらいに」
「そ、れは!」
「そう、好きで両方やるんなら良いの。だけどね? 単に自信がないだけなのに、私の店を言い訳にするのは許せない。だから、出前の仕事はルビィさんに頼むことにしたわ」
「はぁ!?」
「あ、ルビィさんに出前をする人間を斡旋して貰うって話だから。別に、ルビィさんに出前して貰う訳じゃないわよ?」
「そこじゃねぇよ! 何、勝手に俺の仕事奪って」
「先に勝手なことをしたのは、あんたでしょう?」
そこで一旦、言葉を切って恵理は訓練用の木剣をもう一つ手に取り、グイドへと放り投げた。そして、グイドがそれを受け取ったのを見て、挑むように自分の木剣の切っ先を向けた。
「まあ、チャンスをあげるわ……私に勝ったら、それこそ好きにすればいい。でも、私に負けたら観念してグリエスクード領に行って貰うわ」
「……言ったな? 吠え面かかせてやるっ」
恵理の挑発に、グイドが怒鳴り返す。それにやれやれ、と思いつつ恵理はガータに目をやった。
「こんな奴ですが、Aランクの冒険者です……少々、こちらの事情もありますが。闘えることを、示させて頂きます」
「あ、ああ」
そしてガータに一礼すると、恵理は木剣を構えてグイドへと向き直った。




