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訪問者

 レアンの前には、外套のフードを被った人物が立っている。

 最初は、いつもの引き抜きかと思ったが――近づいて、聞こえてきた会話に「おや」と思った。


「だから! お店があるから、無理だってばっ」

「優勝すれば、金も栄誉も思うがままだ! この店のことなど、気にしなくても」

「そういう問題じゃないよ!」


 レアンが、珍しく敬語を話していない。それはそれで少年っぽく可愛いが、客相手には子供にでもレアンは敬語を使う。

 レアンの前にいる人物は、彼より背が高いので年下とは考え難い。そうなると、レアンの昔からの知り合いではないかと思われる。

 ……そして、もう一つ。


「レアン? よければ、店の中で話せば?」

「店長……」

「邪魔するぞ」


 恵理が声をかけると、彼女に気づいたレアンが困ったように銀色の耳を伏せる。

 一方、レアンが店に入れないよう頑張っていたようだが――恵理の言葉を受けてレアンが扉から手を離し、それを受けて彼と話していた相手が店の中へと入った。そして、深めに被っていたフードを外す。

 年の頃は、二十歳前後くらいだろうか?

 首の後ろで束ねた波打つ髪は、光の加減でオレンジ色にも見える赤褐色。

 アーモンド型の瞳は、澄んだ緑。

 その耳は髪の色と同じ、三角の猫耳で――外套の下には、同色の尻尾が隠れているのだろう。


「私は、ガータ。レアンとは同郷で、今はアジュール国の百人長だ」


 そして口調こそ男性だがその華やかな容姿も、よく通る声も若い女性のものだった。

 外套を脱いだら、その下から上着とズボン(つまりは男装)に包まれた豊かな肢体と、腰に佩いた剣が現れる。先程、ドリス達が休憩していたところを見ると今は馬車の来る時間ではない。そう考えると、ガータは歩いてロッコに来たと思われる。


「どうぞ」

「……すまぬ」

「いえいえ」


 だから、と恵理はおろし金ですり下ろしたりんごとはちみつをカップに入れ、お湯を注いだホットドリンクをカウンターに座って貰ったガータへと出した。

 はちみつは子猫には厳禁だが、獣人だからと言って動物に与えてはいけない食べ物が駄目という訳ではない。と言うか、もしそうだったらレアンは玉ねぎやにんにく、カフェインなど一切、口に出来ないことになる。あと、漫画などだと猫舌で描かれることがあるがそれもない。レアンは、熱々のものでも冷まさず美味しく頂いている。

 温かさを取り込むようにゆっくり、そしてしっかりと味わっていき、空になったカップを置いたところで恵理は話しかけた。


「私は恵理。このどんぶり店の主人です……えっと、ガータ、百人長さん?」

「……ガータでいい」


 レアンと同郷なのと、何か役職についているのならそれを呼ぶべきだと思って言うと、ガータが短く訂正した。


「アジュールには奴隷制度があるが、その中から腕の立つ者は兵士となり、戦闘訓練を積む。その中で出世すると部下を持つことが出来るが、その部下の数が役職となっている……とは言え、元は奴隷だ。身分を示すものではあるが、別に無理して呼ばなくても」

「……すごい」


 兵士奴隷と言うことは、ガータもかつて捕らえられたレアンのように奴隷商人に捕まり、彼とは違ってそのままアジュールに連れて行かれたのだろう。

 他国で苦労しただろうに、部下まで持って大したものだと恵理が感心すると、ガータは顔を顰めて口を開いた。怒っているようにも見えるが、少し頬が赤いので照れ隠しのようである。


「私は、運が良かった。奴隷になって一年で、四年に一度の武闘会……国一番の強者を決める戦いがあり、それで優勝したことでまず十人の部下が持てた。普通は、そこまででまず何年もかかる」

「……俺は、行かないよ」


 そんなガータの話を遮るように、今まで黙っていたレアンが言った。

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