色々と考えた結果
元々、賄いに使うコンソメはグルナに分けて貰っていた。
ありがたく使っていたが、コンソメもまず野菜や骨付き肉などを煮込んでブイヨン(出汁)を作り、それをみじん切りにした野菜と卵白を練り込んだ挽き肉に流し入れ、煮込むことでようやく澄んだコンソメが出来る。
これだけで半日以上かかるらしいが、デミグラスソースを作る為のフォン・ド・ボーはその倍以上(二日)。更にブラウンルーを、そしてデミグラスソースをなべ底が焦げつかないように、木べらでしっかり混ぜながら作るのに半日くらいかかるそうだ。
「どんぶりは料理法の一つだから、私のものって訳じゃないですし……逆に、どんぶりだからってそんな時間も手間もかかったものを、簡単に譲り受けるなんて出来ないです。だからって、自分で作るのは無理ですし」
「エリ先生……」
「あ、大丈夫ですよ? だからこそ、グルナのハヤシライスは美味しいですし……更に、特製ふわトロオムレツ! これは下手に素人が作らず、店に行って食べるべき味です」
恵理がそう言うと、ヴェロニカが待ちきれないという感じで自分の前に置かれた丼鉢の蓋を開けた。途端に、温かな湯気と美味しそうな香りが立ち込める。
「あと、似たものを作って貰ったからこそ、私の作りたいものが解りました……カレーを作る為の、香辛料を集めることは大変です。でも集めさえすれば、あとは私でも作れますから」
「カレー?」
「私の、故郷……異国の、料理です。辛いんですけど、美味しいんですよ。まあ、まずは香辛料を集める方法からですね」
ヴェロニカには、恵理が異世界からの転移者だとは伝えていない。個人的には良い子だと思って信用しているが、彼女は帝国貴族だ。ヴェロニカ経由で秘密が漏れるとは思っていないが万が一、恵理が転移者だとバレた時に知らない方が巻き込まなくて済むからである。
「美味しそ~、エリ、いただいて良いかしらぁ?」
「ええ、ルビィさん。皆様も、どうぞ」
「ありがとうございます、女神……成程。確かに、グルナさんの新作、ソースは濃厚ですし、それが卵と絡むとまた格別ですね」
「そうでしょう?」
「……本当。エリ先生もですが、グルナさんと言う方も素晴らしい料理人なのですね」
「でも、俺としてはこのカツ丼が……肉、美味いですね!」
「ありがとうございます。男性のお客様にはカツ丼、好評なんですよ」
「アタシはカツ丼も、グルナの新作もどっちも好きよ~」
話題を変える為か、ルーベルがそう言ったのに恵理は頷いた。
そんなルーベルに促されるように、ティートやヴェロニカ、ヘルバもどんぶりを食べ始めた。口々に言いながらも、皆のスプーンは止まらない。
それを微笑ましい気持ちで眺めていた恵理はふと、先程引っかかった違和感について思い出した。
「あの、さっきの話ですけど……一から建てるんじゃなく、大浴場の二階を使うのは駄目なんですか?」
そう、侯爵家の別邸だったので大浴場の建物は元々、二階建てなのだ。ただ、部屋の造りが平民向きではないので使われていないと聞いている。
だったら、いっそ貴族が使えば良いのではないだろうか――そんな恵理の提案に、一同は「あ」と声を上げた。使っていなかったので、どうやらすっかり忘れていたらしい。
 




