カツ丼とハヤシオムライス丼と
カツ丼は昨日、閉店後に作ったものをアイテムボックスに入れて持ってきた。
まずボウルを二個用意し、それぞれに小麦粉と水、そして卵を入れてかき混ぜる。
次いで豚肉を筋切りした後に塩を振り、先程混ぜた小麦粉、卵、パン粉の順につける。
それからカツを揚げると一旦、皿に上げて粗熱を取った。その間に玉ねぎを薄切りにして、洗ったボウルで今度は上にかける為の卵を溶きほぐした。
フライパン(グルナがローニに作らせていたのを、恵理も作って貰った)に、魚醤と料理酒と水で作っておいたつゆと玉ねぎを入れて一煮立ち。そして切っておいたカツを入れて、一分ほど。その上に卵を流し入れ蓋をし、卵に火が通ったら三つ葉代わりのクレソンを散らして完成だ。
多めに作り、賄いにしたのでレアンとグイドが大喜びだった。
「これで、明日の魔物討伐もバッチリだなっ」
「カツ丼ですからね、当然です。むしろ、失敗したら店長に申し訳ないです。責任重大ですよ?」
「うっ……解ってるよ!」
「いや、そんな大層なものじゃないわよ?」
真面目におかしいことを言い合う二人に、恵理は真顔で突っ込みを入れた。本当に、そんな大したものではないのだ。
昨日のことを思い出し、若干遠い目になりつつも、恵理はまずハーフサイズのカツ丼を皆の前に並べた。次いで、グルナが作ってくれたハヤシオムライス丼を、アイテムボックスから取り出す。
カレーを作りたい。けれど、今ある材料では作れない――そのことをグルナに相談した時に、提案されたのがハヤシオムライス丼である。
「まず、ハヤシライスを作る」
二週間くらい前、それぞれの店の閉店後にグルナは恵理の店に来て、言葉通り恵理達の前でハヤシライスを作り出した。
にんにくと玉ねぎ、次に豚肉を適当な大きさに切る。
そして深めの鉄鍋にオリーブオイルを入れると、まずにんにくと玉ねぎを、次いで豚肉を色が変わるまで炒める。
その後、赤ワインを加えてアルコール分が飛ぶまで煮立て、その間に自分のアイテムボックスからデミグラスソースとトマトケチャップを取り出した。
「ケチャップもだけどデミグラスソース、作るの大変じゃない?」
「そこは、アイテムボックス様々だな。まあ、だからこそ冷蔵庫とか乗り物が発展しないんだろうけど……多少、値は張るけどこれがあればいつ作っても保存出来るし、車までなくても何とかなるからな」
「確かに」
「だから、メニューにするならソース分けるから言ってくれな。さて、煮てる間にオムレツ作るぞ」
そう言うと、グルナはボウルに卵を割り牛乳を入れ、熱したフライパンでふわとろオムレツを作った。それから丼鉢に、タイ米ご飯とオムレツ、ハヤシソースの順に盛った。
「グルナ、本当に神っ!」
「おう、ありがとなー」
「エリ……店長!? そ、そりゃあ、美味そうだけどっ」
「グイドさん……グルナさんの料理は、店長の胃袋をガッツリ掴んでますから」
見た目や味もだが、今の流れならソースを買えば自分でも何とか作れそうだ。
そう思って、恵理は笑顔のまま「いただきます」と手を合わせ、ハヤシオムライス丼を口に運んだ。
……そして次の瞬間、前言撤回した。
「これが、グルナの新作です」
「美味しそうですが……エリ先生? 合同メニューでは、ないのですか?」
ハヤシオムライス丼を並べ、そう告げた恵理にヴェロニカが尋ね――その視線の先で、恵理は首を左右に振った。




