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ヴェロニカの相談

 婚約者『候補』は、ヴェロニカ一人ではない。あと二人、辺境伯令嬢のアレクサンドラと侯爵家令嬢のソフィアがいる。


「かたや北の防御の要であり、ニゲル国との交流もあるグリエスクード家。そして皇帝陛下を支える、宰相職のエレウズィール家……どちらが選ばれても、文句はないと思います。少なくとも、わたくしが選ばれるよりは」

「あらあらぁ」

「事実ですわ。ただ、他の家からは過去に皇妃が嫁いでおりますので、バランスを考えると我が家がちょうど良いことと。あと、リンスや大浴場を紹介したのを『社交性が高い』と思われたようでして」


 自虐的な言葉に、ルーベルがたしなめるようなあいづちを打つ。

 けれど、ヴェロニカは冷静な分析で返してため息をついた。伏せた長いまつ毛が、白い頬に影を落とす。


「わたくし達は、貴族です。成人前ですので、子供同士のお茶会くらいでしか、殿下とはお会いしていませんが……候補として選ばれたことは光栄ですし、誰が正式な婚約者として選ばれても文句はありません」

「ヴェロニカ様……」

「……ですが!」

「っ!?」


 商人などの富裕層や貴族以上の場合、結婚は家柄や親の意向が絡んでくる。

 それ故、淡々としたヴェロニカの言葉に、恵理は何と言っていいのか悩んだが――次の瞬間、ヴェロニカが紫色の目をカッと見開いたのには驚いた。

 そんな恵理の隣で、ヴェロニカが右手で拳を握って力説する。


「わたくし達を言い訳にして、口を出してきたり足を引っ張り合うのには辟易しております……全く! 良い年をした方々が、わたくし達の影に隠れてグチグチとっ」

「まぁ~、確かに美しくないわよねぇ?」

「その通りです!」


 ルーベルの言葉に、ヴェロニカがキッパリと答える。

 だがすぐに振り上げた拳を降ろし、肩を落として恵理達の前で言葉を続けた。


「ただ、無理難題なのですが無視も出来ず」

「無理難題とは?」

「……ロッコに、貴族向けの交通手段と宿泊施設、あと大浴場を作ることです」


 その言葉に、問いかけたティートとルーベルが真顔になり――その理由が解らず恵理が戸惑うと、気づいたティートが説明してくれた。


「交通手段は……平民と同乗が無理そうなら、貴族専用の馬車を用意すれば何とかなると思います。ですが、宿泊施設はそう簡単にはいかない」

「えぇ、まさか素泊まり宿を使わせる訳にいかないし……そうすると、大浴場込みでの用意になるからぁ。新築となると、早くても二年くらいかかるわねぇ」

「あ……」


 二人の説明を聞いて、恵理は今更ながらにここが異世界だということを痛感した。労働者はいるが、建物を建てる為の重機がない。そうなるとほぼ人力になるので、確かに年単位かかるだろう。


(あれ? でも……)


 そこでふと、恵理は引っかかった。

 だが、何に引っかかったのかはすぐに形にならず。まとめる為にも、恵理は一旦、話題を変えることにした。


「あのっ! 実は今、限定でカツ丼を出しているのと! グルナが、新しいどんぶりを作りまして! よければそれぞれ、試食して頂けませんか!?」

「「えっ!?」」

「あらぁ、素敵♪」

「あ、あの、もしかして俺もご相伴に預かれるんでしょうか?」

「ええ」

「良かったわねぇ。あ、若旦那詰めてちょうだい? 座って、一緒に食べましょ~?」


 恵理の言葉に、ティートとヴェロニカが驚きの声を上げ――ヴェロニカの横で立っていたヘルバが聞いてくるのに、恵理は頷いた。

 そんなヘルバを、すっかりご機嫌になったルーベルが手招きして、ティートの隣に座らせたのだった。

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