こんな理由がありまして
「おはようございます、女神!」
「おはよう……これ、お願いね」
「かしこまりました」
次の日の朝、ティートが恵理の店に来たのは、ヴェロニカとの会合に向かう為――だけではない。恵理のところに持ち込まれる貴族や他の商人からのお金や手紙を、そのまま預かって貰っているのだ。
……最初に相談した時、ティートは綺麗な、けれど一方で笑顔を形造っている『だけ』の無表情で口を開いた。
「女神を敬うのは当然ですが、私物化しようとするなんて……手紙がついているなら、好都合ですね。こちらで『しっかり』把握させて頂きます。お金はいつでも返せるよう、保管しておきますのでご安心を」
「……また、義援金にするのかと思った」
「お金はお金ですが、妙な思惑が絡めば女神を支えるのではなく、女神を縛る鎖になってしまいますので」
そう言って、自分のアイテムボックスに恵理から受け取ったお金や手紙を笑顔のまましまったティートはは、本当にブレないなと――そして、美人は怒っても綺麗だなと恵理は思った。
それ以降、ティートは週に一度やって来て恵理からお金や手紙を預かっている。
※
次に、恵理とティートが向かったのは、ヴェロニカと会う冒険者ギルド――ではなく、グルナの店だった。
「おう、恵理。おはようさん」
開店準備をしていたグルナは、店に入ってきた恵理達にそう声をかけると、恵理の店にある丼鉢より半分くらい小さい丼鉢を四つ、カウンターの上に置いた。
恵理が二分の一サイズの丼鉢を作って貰ったのは、小食な女性や子供の為だ。あと、別の種類を食べられると『半どんぶり』は好評である。
そして女性客が多いのと、今回の恵理とのコラボどんぶりがある為、グルナも通常の丼鉢と共に二分の一サイズの丼鉢を用意した。今回はもう一つ、カツ丼を同じ半どんぶりで用意しているのだ。
「ヴェロニカさんと護衛さん、あとネェさんと若旦那の分。恵理は、試作の時に食べたからいいよな?」
「ええ」
「……僕の分も、作ってくれたんですか?」
「おう。ってか配膳する恵理はともかく、ネェさん達が食べてるのにあんたの分がないとかないから! あと、俺らの金も預かって管理してくれてるお礼なー」
「……ありがとうございます」
蓋がしてあるので、コラボどんぶりの中身は見えない。
だが、恵理とグルナが作ったものという安心感からか――ティートは怒っている時とは違う。眼鏡の奥の瞳や頬を緩めた、本当の笑みを見せた。
※
他のどんぶりもあるので、今日は岡持ちではなくアイテムボックスに、グルナの作ったどんぶりを入れた。そしてティートと共に、恵理は冒険者ギルドに向かった。
ルーベルの部屋に行き、しばらく雑談しているうちに受付嬢がヴェロニカの到着を知らせる。
「ごきげんよう、皆様」
「……ヴェロニカ様?」
恵理が、戸惑ったように少女の名前を呼んだのには理由がある。
前回同様、縦ロールと目力を強調した化粧ではあるのだが――外套を脱いだ下から現れた服装が、ドレスではなく膝下丈の紫色のワンピースだったからだ。貴族はドレスが基本なので、服装だけだと商家のお嬢様に見えなくもない。
「今回はヘルバと、帝都からの無料馬車に乗ってきたのです……護衛もしっかりしていて、思ったより快適でしたわよ?」
そんな恵理達の前で、ヴェロニカはにっこり笑って驚くことを言ってのけた。




