お粗末なテンプレ
恵理『達』と言ったのは、声がかかっているのが彼女とグルナ、そしてパン屋の主人と酒場の店主にだからだ。つまり、ラグー飯に関わったメンバーにである。
最初は営業中にいきなり小奇麗な格好をした男がやって来て、上から目線で帝都に来るように言われた。
「我が主人が、帝都で店をやるように言っておられる! 開店資金はあるから、さっさと準備を」
「お断りします」
「しろ……って、何だと?」
「だから、お断りします」
「ふざけるな!? 頷くこと以外、許されると思うのかっ!」
「すみません、失礼します!」
「グアッ!?」
そう怒鳴って、いきなり恵理の腕を掴もうとしたので反撃しようとすると――その前に、レアンが謝罪と共に男の腕を捻り上げた。そして、苦痛の声を上げた男をそのまま店の外へと連れていった。
パッと手を離し、その場に崩れ落ちた男にレアンが言う。
「店長は断ってます。そう、あなたのご主人様に伝えて下さい」
「クッ……覚えてろよ……」
「……俺もですけど、これ以上やるなら店長も容赦しませんよ?」
「ちょっ、離せよっ」
レアンがそう言ったところで、別の声が飛び込んできた。
今の男はレアンに任せたが、他の店でも同様な騒ぎが――と恵理が慌ててカウンターを出て外に出ると、ちょうどグルナが別の男の首根っこを掴んで、店から追い出しているところだった。
「何だよ、恵理の店もか?」
「……グルナ、強いのね」
「えっと、護身用? ほら、魔法までは無理だけど、肉体強化はそこそこイケるからさ」
などと話しているうちに、パン屋からも男が蹴り出された。
「……何、皆さん結構、武闘派?」
「あー、元々が労働者の街だからなー」
「「「貴様ら、覚えてろよっ」」」
などと呑気に話しているうちに、男達はそんなことを言って逃げ去った。
何と言うか、テンプレだなーと恵理が思っていたら、一週間くらいで仲間らしき強面の男達がやって来て、酒場も含む彼女達の店に乗り込んできた。
……まあ、同様に返り討ちにしてやり。それ以降は方針を変えたのか、営業後にお金を持ってくるようになったのである。
騒がなくなったのはいいが面倒で、グルナと共にルーベルに訴えに行くと。
「本当なら、リンスも欲しいでしょうけど……アレは、ヴェロニカ様が宣伝してくれてるからぁ。流石に、侯爵令嬢差し置いて手は出さないわよねぇ」
「ルビィさん……」
「でも、料理人ならあんた達がその気になれば、手に入れられるから……特にエリは、リンス発案者だけじゃなく、今回の魔石再利用にも一役買ってるでしょ?」
「手に入れられるって……私達は、物じゃないですよ」
「同感、だけど……リンス方式でいくといっそ、俺らお嬢様のモノになった方がいいのかね? 個人じゃなく、お嬢様との契約とかさ」
「あらぁ、ソコ気づいちゃったぁ?」
「まあ、ロッコにいるんならいっそその方がいいだろ?」
「……確かに。ただ、ヴェロニカ様に迷惑かからない?」
見た目は物語に出てくるライバル令嬢だが、中身がとても良い子なのは知っている。契約と言いつつも本当に形だけで、間違っても恵理達を縛ることはないだろう。
ただ、良い子だけに苦労をかけるのも――と恵理が躊躇すると、ルーベルが軽く鳶色の隻眼を見張り、次いでにっこりと笑って言った。
「心配なら、直接聞けばぁ? ちょうどヴェロニカ様から、近々来たいって言われてるから」
「「えっ?」」
そんな訳で、仮にも侯爵令嬢ととんとん拍子で話が進み――各店舗が定休日をずらしている関係で、恵理とグルナがそろってヴェロニカと会うのは難しいので、恵理の店の定休日に恵理が一人でヴェロニカと会うことになったのである。
「でも、来るって……ヴェロニカ様も、何か話があるのかしら?」
寝る前の日課である筋トレとストレッチを終えた後、ベッドに寝転がって恵理は呟いた。




