夢中になるのは解るけれど
魔力はティエーラに満ちた力をそこに生きる人々が取り込むことで、その属性に合わせた魔法となる。そして腕力や脚力のように、鍛えることで取り込む量を増やすことが出来る。
そしてSランクの魔術師であり、複数の属性を扱えるミリアムは、見た目の小ささに反して膨大な魔力を持っている。
その魔力を使い切った魔石に付与することで、また魔石を使えること。更に使い切った魔石には、元々の属性以外の魔力を与えられると解った。
獣人の里にミリアムは入れないが、魔石なら専用の箱に入れれば商会の人間が運び、取引をしている獣人が里に持ち込むことが出来る。流石に一個、そして一瞬という訳にはいかなかったが、地属性の魔石を数個畑に置くことで栽培に一年近くかかるてんさいと、二年くらいかかるこんにゃく芋が一週間くらいで収穫出来た。そして魔石は、ロッコの畑でも作物の収穫を早めることが確認出来た。
これで、ミリアムが畑に行かなくても収穫には困らない。その結果を知り、ミリアムは灰色の瞳をキラキラと輝かせた。
「やっぱり、エリ様はすごい」
「そんな……ミリーだから言うけど、異世界には『充電』って似たような仕組みがあるのよ。だから、私がすごい訳では」
「知識を活かせるのが、すごい」
褒めてくるミリアムにそう言ったが、ミリアムは譲らなかった。それから嬉々として、ティートが商会経由で用意した使用済の魔石に魔力を込めていった。
……もっとも夢中になり過ぎて、貧血ならぬ魔力切れを起こす羽目になったが。
「ミリー! 無理すんなよなっ」
「……大丈夫。寝て、食べれば回復」
「って、またやる気満々だろ!? そもそもぶっ倒れんなって言ってんの!」
「…………」
「ミーリーイー」
サムエルとミリアムは、冒険者ギルドの三階にある部屋でそれぞれ暮らしている。
ベッドに運ばれたのに懲りていないミリアムを、サムエルが叱る。それにミリアムが口をへの字にすると、サムエルの声が低くなった。
そんな二人を見て、見舞いに来た恵理が口を開く。
「サム、落ち着いて」
「……師匠」
「ミリー。あなたのおかげである程度、てんさい砂糖も手に入ったから……親子丼を、定番メニューとして店に出せるわ。ありがとう」
「エリ様」
「でも、こうやって倒れるなら、お願い出来ないわ。本格的な冬が来る前に、魔石のおかげで色々と収穫出来たのはありがたいけど……今のままだとミリー、部屋にこもってずっと魔石を作り続けるでしよう?」
「うっ……」
「楽しそうだから、全部を止めたくはないけど……それこそミリー、最近、店にも来てくれていないでしょう? せっかく親子丼作れるのに、食べに来てくれないの? 元気じゃないと、ご飯も美味しくないわよ?」
「……ごめん、なさい」
静かに、ゆっくりと。
そう心がけた恵理の言葉の数々に、最初は得意げだったミリアムの表情がしだいに気まずそうなものに変わり、最後には泣きそうな表情になって謝ってきた。
「サムも、ごめん」
「……おう」
「冒険者の仕事も、しばらくしてなかった」
「まあ、俺は俺で依頼受けてたけど……のんびり楽しく、が『スローライフ』じゃねぇの?」
「ん。反省」
「ああ」
そして夢中なるあまり、放置していたサムエルにも謝るミリアムに――サムエルはやれやれと言うように笑い、ミリアムの頭を優しく撫でた。
……それが、一ヵ月半くらい前。月の節(十一月)の頃の話である。




