砂糖と魔石
異世界であるティエーラには大陸があり、その中で四つの国に分かれている。
それが恵理のいるロッコの街があるアスファル帝国と、そこから南に向かったところにあるルベル公国。そしてアスファル帝国から見て東、大陸を縦断する山脈を越えたところにあるニゲル国と、そのニゲル国から南に向かったところにある砂漠の中にあるアジュール国だ。
胡椒やスパイスはアジュール国で作られているが、砂糖はアスファル帝国の隣国で、ティートの故郷であるルベル公国の特産品である。
とは言え、サトウキビの砂糖は輸出の為の商品として扱われているので、ルベルでも口に出来るのは国でも公族や貴族くらいで、それも毎日どころか年に数回がやっとらしい。そして輸出品として扱えるのも公王御用達の商人のみなので、ティートの商会は入手出来ないそうだ。
だが、親子丼には砂糖を使いたい。
それ故、獣人の里にあると解ったてんさい砂糖を使うことを思いついた。しかし、一緒に発見されたこんにゃく芋共々、収穫出来るのに二年くらいかかるとグルナから教えられた。
そうなると、一定量の収穫と商品化には時間がかかるだろう。
だから、定番メニューにするのには時間がかかる。一度は、そう思った恵理だったが。
「私、魔法使う?」
恵理の店での夕食後、そう言って小さな手を挙げたのはミリアムだった。
そこで恵理達はミリアムの土属性の魔法で、グルナの畑の野菜や果物を短期間で育てたことを思い出した。だからミリアムは同じように、てんさい砂糖やこんにゃく芋をロッコに植えて魔法で育てれば良いと思ったのだろう。
けれどそこで、休みだからと恵理の店に来ていたグルナから待ったがかかった。
「いや、たとえ魔法を使うとしても元々が寒冷地の植物だから、下手に土地を変えない方がいい。土で、味が変わることがある。良くなればいいが、万が一のことを考えるとやめておくべきだ」
「……なら、私が行けば」
「ごめんなさい……たとえミリアムさんでも、畑のある里の中には入れません」
「むぅ」
「まぁまぁ、ミリー。仕方ねぇだろ?」
尚も言い募るミリアムを、今度はレアンが謝りつつも止める。それに彼女が無表情ながらも頬を膨らませ、サムエルが宥めていた時だ。
「……魔石じゃ、駄目なの?」
「女神?」
皆の話を聞いていた恵理は、己の疑問を口にした。
そんな彼女にティートが呼びかけ、他の面々の視線も集中する。それに少したじろぎつつも、恵理は思いついた内容を伝えた。
「えっ、と……魔石を使う魔道具って、つまりは魔石の魔力で動くんでしょう? だったら、その魔力でミリアムの魔法みたいに、てんさいやこんにゃく芋を育てられるんじゃって……思ったんだけど」
そこまで言ったところで、恵理はかつてロッコが魔石を採取出来なくなったことを思い出した。たとえ使えたとしても、無限ではないのなら買うのは心許ない。それなら、どうするべきだろうか。
「……使い切った魔石に、改めて魔力って込められないの、かしら?」
魔法の使い方はアレンから習ったが、魔石については電池の代わりくらいのふんわりした知識しかない。だから恵理としては、携帯電話の充電くらいのイメージだった。
けれど、ミリアムがカッと灰色の目を見開いたところを見ると――どうやら、そういう単純な話ではないらしい。




