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思いがけない申し出に

 確かに、恵理はグイドに好き勝手やるように言った――言ったのだが、まさかである。


「俺を、あんたのところで働かせてくれ! 勿論、ただ働きでいいっ」


 まさか泣き終えたグイドが、ババアだ年増だと言っていた恵理に土下座をし、そんなことを言い出すとは思わなかった。


「……えっと、まさかと思うけど罪滅ぼしのつもりなら結構よ?」

「違うっ……いや、全く違うとは言えないが……」


 恵理の言葉に反論するが、何故かそこでグイドが顔を赤くする。

 意味が解らず首を傾げていると、そんな恵理の視線の先でグイドがキッと顔を上げた。


「俺、あんたに惚れた……いや、惚れてた! つまり、惚れた女の力になりたいんだっ」

「え、無理」

「っ!?」

「いや、過去形なら尚更。好きな相手を罵るとか本当、無理」


 そして告げられた言葉に、恵理はキッパリ即答した。更に、誤解の無いようにしっかり説明をした。年の差は勿論だが、自覚がなかったにしろ惚れた女にババアだ年増だと言う男など信用出来ない。それは照れ隠しと言うより、嫌がらせや言葉の暴力である。

 そんな恵理の返事にショックを受け、ガックリとその場に崩れ落ちたグイドの肩に手を置き、デファンスが妙に良い笑顔で恵理に言う。


「それだけキッパリ言えば、こいつも妙な期待は持たんだろう! だがギルドマスターとしては、若い才能を失うのは忍びない……ここなら帝国領だし、しばらくの間で良いんで預かってくれんか?」

「えぇ……」

「頼むっ」


 思いがけない援軍の登場に恵理は眉を顰め、グイドは勢いを得たように上げた頭を再び下げてそう言った。

 ……忘れていたがグイドは元々、ルベル出身だった。

 挫折や失恋で、国に帰られては確かにギルドマスターとしては困るだろう。それを考えるとサムエル達のように、ロッコに留まっている方が良いのかもしれない。

 やれやれと思った恵理は、そこでふと空になった丼鉢――ではなく、岡持ちへと目をやった。


「あ」


 そして、そこで何かを思いついたように声を上げた。



 異世界ティエーラに、電話は無い。

 だから、どうしても出前の注文を受け付けるには来店が必要だが――せめて、閉店した後も受付出来るように店の前にポストを置き、出前を始めることにした。

 そうしたら、思った以上に注文が入った。ローニのように仕事があり店でゆっくり出来ないという客もだが農作業に出ている面々、あと宿や大浴場の休憩室でどんぶりを食べたいという客もいたのである。

 とは言え、調理担当の恵理と接客担当のレアンでは手が回らない。

 それ故、グイドを出前担当として雇うことにしたのである。

 ……ティート達は勿論、今回はグルナやルーベルまで反対した。


「女神、悪いことは言いませんから元いた場所に戻して下さい」

「ちょっ、人を捨て犬みたいにっ」

「もっと性質が悪いわぁ。百歩譲って、うちのギルドで馬車馬のように働かせるならまだしも。今までの話を聞いている限り、同じ屋根の下は流石にまずいと思うわよぉ?」

「……俺も。ネェさんに一票」

「俺も俺もっ! いや、師匠の店どころか同じ街にいてほしくないから、帝都に帰すに一票!」

「わたしもよ、サム」

「……私、も。サムに一票」

「そんな……」

「……んー」


 口々に言う面々にグイドは何も言えなくなって身を縮め、恵理も困ってしまった。

 自分を気遣ってと言うのは解るが、帝都に帰すのは周囲の目を考えると流石に可哀想になる。さて、どうするかと思っていると。


「……流石に、店で寝泊りは困りますけど。外回り要員として雇うのは、俺も賛成です」


 そう言ったレアンに、恵理も含めた一同の目が集中した。そんな視線に怯むことなく、レアンが言葉を続ける。


「人手が足りないのは事実ですし、店長に好意を持つこと自体は仕方ないと思うんですよね……だけど、間違ってもこの人に店長が店員以上の好意を持つことはないでしょうから。むしろ、それを痛感するのがこの人への罰になるんじゃないですか?」

「お前、可愛い顔して酷いなっ!?」

「酷くないと、そもそも罰にならないじゃないですか」

「うっ……」


 淡々と容赦のないことを言ったレアンに、最初は噛みついたグイドも言い負かされて呻く。

 そんな二人を見て、ティート達も反対をやめて恵理の我が侭を許してくれた。



 現在、グイドは監視目的で冒険者ギルドで寝泊りし、通いで恵理の店に勤めている。


「じゃあ、行ってくるぞエリ!」

「店長って呼んで下さいっ」

「悪い! 改めて店長、行ってくる!」


 そんな訳で雪がちらつく中、グイドが岡持ちを手に言うと即座にレアンが注意した。年下だが、レアンがこの店では先輩なのでグイドも素直に謝りはする――もっとも、悪気は無いのだが長続きはせず、またレアンに怒られるのだが。


「はい、行ってらっしゃい。転ばないようにね」

「おうっ」


 そう言って、恵理はグイドを送り出した。そんな彼と入れ違いに、大浴場帰りらしい客が店にやって来る。

 それに恵理とレアンは、満面の笑顔で声をかけた。


「「いらっしゃいませ!」」

第一部完。ここまでが(文章など読みやすく直していますが)書籍分です。

色んな意見があると思いますが、自分の書きたいように書きました。お付き合い、本当にありがとうございました。


来週から、続きをまた週一ペースで更新していきます。よければまたお付き合い、よろしくお願いします。

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