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ほのぼのを吹き飛ばしたのは

 奴隷商人につけられた、鉄の首輪については風魔法を使って内側から破裂させた。


「すごい……ありがとうございますっ」

「いえいえ」


 喜びに目を輝かせ、レアンが感謝を伝えてくる。それに頷いていると、満腹になって落ち着いたせいもあってか、捕まっていた時の汗や埃汚れが気になったらしく犬耳を伏せた。

 とは言え、近くに川や池などはなく――一方で、年増とは言え女性である恵理の前では抵抗があるらしいので、桶(アイテムボックスに入れてあった)に魔法で水を出して、タオルと共に渡した。今は少し離れた茂みに隠れて、体を拭いている。


(さて、と)


 今夜でどんぶり飯を(主にレアンがだが)食べ切ったので、より分けていた鳥の骨や脚を使って鶏がらスープを作ることにした。

 大体三十分くらいくらいかけて、鍋で臭みを取る為のねぎ(日本より大ぶりで葉が平たいが十分だ)と一緒に灰汁を取りながら煮込む。そして出来上がったスープは凍らせ、風魔法の刃で小分けにして器に、そしてアイテムボックスに入れた。

 ちなみに、使い切った骨や脚は焚き火にくべる。そのまま埋めると、獣が寄ってくる危険があるからだ。


(あとは)


 次いで、明日食べる分のタイ米を鍋に入れて水に浸しておく。これは、時が止まる状態になるアイテムボックスには入れられない。米に、水を吸って欲しいからだ。


「あの、戻りました」

「お帰り。明日、街に着いたら着替え買おうね」

「そんなっ!?」

「気になるなら、出世払いでお願いね。行き倒れてた時に荷物、盗られちゃってるんでしょ?」

「……はい、すみません」


 戻ってきたレアンだったが、何気ない恵理の言葉にいちいち律儀に反応する。可愛いと思うが、落ち込ませたままでいるのも気の毒だ。


「ねぇ、火の番なんだけど途中で交代して貰っていいかな? 四刻くらいしたら起こすから」

「はいっ」

「この鍋は水、入ってるからひっくり返らないように気をつけて。明日の朝ご飯用ね」

「はいっ」


 ティエーラでは、一刻で大体一時間くらいである。ちなみに勇者の影響か、一年も日本と同じ十二ヶ月だ。

 一晩の徹夜なら何とかなるが、むしろ生真面目なレアンは何もさせないと気にしそうだ。現に今も、出来ることがあるのが嬉しいのか目をキラキラ輝かせている。


(私も昔、こうだったわよね)


 実は、魔力はあっても魔法は誰にでも使える訳じゃない。聞くとレアンも、ほとんど使えないそうだ。

 ただし彼は戦えるらしいが(空腹になると駄目らしいが)恵理はこの世界に来たばかりの頃は魔法も戦うことも、どちらも出来なかった。だからこそ魔法が使えるようになるまで、アレンに付いていくしかないのが申し訳なく。せめて、と思って料理を作ると言い出したのがきっかけだった。


 パーティーに加わる若手もだが、レアンを見ていると昔の自分を思い出す――貸した毛布にくるまり、すぐに寝息を立て出したのを見て恵理は目を細めた。



 翌日、目を覚ました恵理はにんにくと玉ねぎを炒め、昨日作っておいた鶏がらスープを、そしてタイ米を投入し半刻くらい煮てお粥を作った。


「今日もおいしいです! あったかくて、全身ほっこりします」

「うん、ありがとう」


 今日もレアンは、ちゃんと飲み込んでから笑顔で嬉しい感想を言ってくる

 実は内心、昨日の食べっぷりを見て足りないかと心配していたのだが――昨夜しっかり食べたせいか、今朝はおかわりなしでも満足げなのでホッとした。


 ……こうして食事を終えた後、恵理はレアンと二人で公道へと戻って次の街を目指して歩いた。レアンが気にするので、マントを貸してやり耳と尻尾は隠している。

 それから昼が過ぎた頃、次の街(皇都に近いので、ちょっとした宿場町になっている)に到着した恵理だったが。


「めーがーみーっ!」

「っ!?」


 宿屋で落ち着く前に、少しお金を下ろそうかと冒険者組合の支店(あまり僻地になると難しいが、依頼が受けられるように大抵の街にはある)を探していた恵理はギョッとした。

 随分と、大きな声とその内容に――だけではなく。『聞き覚えがあった』のと、猛ダッシュで駆けてきた声の主が、恵理と咄嗟に前に出て庇ってくれたレアンの前で滑り込む勢いで跪いたからだ。


 首の後ろで束ねた黒髪。眼鏡の向こうには、切れ長の青い瞳。もうすぐ二十歳になる彼は、黙っていれば美人(男性だが、美男子というと何か違う)である。 


「お待ちしていました、女神!」

「え、あの……エリさん、知り合いですか?」

「…………ええ」


 けれど、それこそ神を拝めるように両手を組んで恵理を見上げる姿は、何と言うか『残念』で――困惑したレアンに尋ねられなければ、申し訳ないが他人のフリをしたかもしれない。

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