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どんぶりは優しさで出来ている

 リーダーにグイドが選ばれた時、ショックではなかったというと嘘になる。

 けれど、恵理は絶対に選ばれない。出自を調べられては困るので、そもそもリーダーの資格であるAランク以上になれないのだから。

 ……それに、もう一つ。

 帝都で冒険者となり、次々と依頼を受けていくグイドを見てアレンも、そして恵理も彼が冒険者としての成功を求めているのだと思った。だから他の者達にはアレン亡き後、文句を言う者もいたが恵理としては「やりたい者がやれば良い」と思い、パーティーを支えることに専念した。


「ですがもし、あなたの『やりたいこと』がお父様に認められることだったとしたら……リーダーとして認められることで達成していたのなら、その後の苦労はあなたが負うべきではありませんでした。だから」

「謝るなっ! その喋り方も、やめろっ」


 恵理の言葉を遮り、両手で拳を握ってグイドが怒鳴る。


「責めればいいだろう!? お前らが作った『獅子の咆哮』を、俺はぶっ壊したんだからっ……それとも、自分は許すって善人ぶりたいのか!?」

「……逆ギレかよ」

「あぁ!?」

「あんたに押し付けたのは悪かったし、嫌々してたんならパーティー崩壊も仕方ない……だけどねぇ!? ウジウジする暇あるんなら、次にやりたいことを見つけなさいよ……一人で全部、抱え込んで落ち込んで、死にかけるくらいならっ」


 それに、と恵理はボソリと呟いた。

 そして怒鳴り返し、岡持ちから丼鉢とお椀を二人分取り出す。怯むグイドと、黙って成り行きを見守っていたデファンスに、恵理は言った。


「私は、私が作ったものを食べて貰うのが好きなの……さあ、食べてちょうだい!」



 丼鉢とお椀の蓋を開けると、ふんわりと湯気が上がった。


「さて、いただくとするか」


 そう言って、デファンスはスプーンで親子丼を掬った。そして、まずは半熟卵と鳥肉を口に運ぶ。


「甘じょっぱいな……おお、リーゾ(米)と一緒に食うと更に美味い。卵はプルプルしているし、肉とオニョンの歯ざわりも良いな」

「…………」

「こっちのスープも美味いな。この白いのも、口の中で崩れて面白い」

「ありがとうございます」


 しっかり咀嚼してから嬉しい感想を言ってくれるデファンスと、何も言わないし顔は顰めているが食べる手は止めないグイド。

 そんな二人にお礼を言って、恵理は少し考えて言葉を続けた。


「それは『親子丼』って言うんです」

「『親子丼』? あぁ、鳥肉と卵だからか?」

「ええ」


 恵理の言葉に、グイドが嫌そうに口をへの字にする。そんな彼に、恵理は言う。


「……私のこと、前リーダーの愛人とか勘違いしてるのは知ってたけど。私にとっては、もう会えない父親代わりだったの。今まで、何か悔しくてあんたには言えなかったけど」

「えっ……」

「そんな前……いいや、もうアレンで! アレンに食べて貰って、美味しいって言われたのがきっかけだけど……今は他の人達にも、デファンスさんやあんたに食べて貰えて嬉しいの」

「っ!?」

「だから、私はこうして好き勝手やってるから……あんたも、好き勝手やってちょうだい」


 そう言ってにっこり笑ってみせると、以前の恵理のようにグイドの碧眼から一筋、二筋涙が溢れて伝い落ちる。


「……馬鹿かよ」

「ちょっと」

「馬鹿だろ。追い出した人間にまで、そんな……優しいこと言って、美味いもの食わせて」


 それから俯き、ボソリと呟いたのにはつい言い返しそうになるが――次いで、続けられた言葉に恵理は笑って答えた。


「それ、どんぶりって料理なんだけど……色んなものをまとめて、美味しくするの。優しく感じるのはきっと、あんたに色々あったからじゃない?」

「っ!?」

「そう考えると、どんぶりって美味しいだけじゃなく優しさで出来てるのね」


 自分が優しいとは全く思わないので、恵理がそう言うと――色々限界だったらしく、グイドは泣きじゃくり出した。

 これ以上、追い討ちをかけても何なので恵理は黙って泣き止むのを待つことにした。

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