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異世界温泉であったかどんぶりごはん(旧題:パーティーを解雇されたアラサー女子はどんぶり屋を開く)  作者: 渡里あずま
第一部

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嫌だったと気づいてみれば

 タイ米をいつものように炊いた後、恵理は上に親子丼と味噌汁の準備を始めた。

 オニョン(玉ねぎ)は縦スライスに、鳥肉とリーク(西洋ねぎ)は一口サイズに切る。

 そして卵を器に割り、軽く混ぜた後に調味料となる魚醤と砂糖、あと水を用意して、別の器に入れて混ぜた。

 そこで一息ついて、恵理は味噌汁を作り始める。

 鍋で水と出汁代わりの魚醤を入れて火にかけ、煮立ったら味噌を溶き入れる。その後、スピナ(ほうれん草)とひよこ豆の豆腐を入れて、煮立つ直前に火を止めて陶器のお椀に入れたら完成だ。

 それから、フライパン代わりに使っている浅い鉄鍋に調味料と鳥肉とオニョンを入れて火にかけ、鳥肉に火が通ったところでリークを乗せて卵を回し入れた。


「よし」


 半熟になったところで火を消し、ご飯の上にスライドさせるように乗せて出来上がりである。店の定番にするにはすき焼き丼同様、砂糖を安定して入手出来るようになってからだが、デファンスとグイド二人に食べさせるなら問題ない。

 二人分のそれらに蓋をし、恵理は岡持ちに入れた。

 そして、彼女が岡持ちの木の持ち手を握ったのを見て。


「いってらっしゃい……頑張ってきて下さい、店長!」

「はい、行ってきます」


 応援してくれたレアンに、笑ってみせて――恵理は店を出て、冒険者ギルドへと向かった。



「よく来てくれたな、エリ」

「ギルドマスター……ご無沙汰しています」

「よければ、名前で呼んでくれ。昔みたいにな」

「……はい、デファンスさん」


 気づけば、帝都を後にしてから五ヶ月くらい経っていた。テーブルに岡持ちを置き、挨拶をして頭を下げる恵理に、デファンスが声をかける。

 思えば、今の恵理は冒険者ではない。それ故、役職で呼ばなくても良いのだが――冒険者を辞めた云々を省いて言ってくれたデファンスに、心の中で感謝しながら恵理は答えた。


「……こんな田舎で、飯炊き女かよ」


 そんな彼女に、グイドが相変わらずの憎まれ口を叩いてくる。

 もっとも予想はしていたので、恵理はやれやれと思いながらも口を開いた。一応、相手は準貴族なので最低限の敬語を使う。


「働かないと、生きていけませんから」

「だったらあの時、俺に頭を下げてりゃ良かったじゃないか。そうしたら帝都を出て行くことも、田舎で苦労することも」

「仕事は冒険者だけじゃありませんし、住むところも帝都だけじゃありません」


 答えながらも、そもそもグイドに頭を下げてまで冒険者を続け、帝都にいたくなかったのだと思う。

 ……あの時は理由まで思い至らなかったが、ルーベルやサムエル達と話した今なら解る。


「『獅子の咆哮』の為だと思って、何を言われても黙って働いてきましたが……そもそも馬鹿にされるのは嫌ですし、私がそうやって馬鹿にされるのを嫌がる人もいます」

「そんな……嫌って」

「働くこと……いえ、生きることはそもそも楽なことばかりではないと思います。だけど嫌な気持ちで苦労することと、楽しい気持ちで苦労すること。それなら私は、楽しい気持ちで苦労することを選びます」


 そこで一旦、言葉を切って恵理は真っ直ぐにグイドを見つめて尋ねた。


「……あなたはリーダーになった後、楽しかったですか?」

「えっ?」

「パーティーに入って、冒険者として活躍しランク上げしている時は楽しそうだと思いました。そしてリーダーになって、私を馬鹿にしている時も……その後は? 私がいなくなった後、楽しかったですか?」

「それ、は……」

「……申し訳、ありません」


 恵理の問いかけに、言葉を詰まらせたグイドを見て――恵理は、深々と頭を下げてそう言った。


「私と、アレン……あなたのお父様は、あなたに『嫌なこと』を押し付けてしまいました」

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