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今更ながらに突きつけられて

グイド視点

 帝都を出て、馬車に揺られ――途中で冒険者ギルドの支部で一泊し、翌日の午後グイド達はロッコに着いた。

 情けないが、酒浸りになっていた体は馬車で横になっていただけなのに、移動だけで疲れてしまった。外套のフードを目深に被り、宿泊先となる冒険者ギルドの部屋に移動しようとすると。


「あらぁ、本部長、いらっしゃ~い」

「おお、ルーベル。世話になるぞ」

「っ!?」


 見た目も声も精悍な男性なのだが、その口から出た女口調がそれを裏切る。ギョッとし、固まったグイドを余所に謎の男とデファンスは平然と言葉を交わしていた。


「よろしく頼む」

「ええ……でも、本当に冒険者ギルド(ここ)で良かったのかしらぁ? まあ、確かに宿は素泊まりだから、本部長様が泊まるようなところではないけどぉ」

「冒険者としては、屋根があれば十分だ。とは言え、何がある訳ではないがお前さんの目が届くところにいた方がいいだろう?」

「助かりますぅ」


 そう答えたところで、鳶色の隻眼がグイドへと向けられる。


「アタシはルーベル。ロッコ(ここ)のギルドマスターで……エリの、姉的存在なの。あぁ、こんなんだけどアタシにも好みがあるから、心配しないでねぇ?」

「え……」


 笑ってはいるが、目が笑っていない。しかも、非常に返しに困ることを言ってくる。

 とは言え、別にグイドの返事は求めていないようだ。すぐに踵を返し、受付嬢のいるカウンターへと向かっていった。


「相変わらずだな」

「……あのギルマス、昔からあぁなのかよ?」

「それもそうだが、お前さん……ランクは同じなんだから、役職付きの向こうの方が格上だろうが。しかも、ギルド内に泊めてくれる。どんな相手であれ、何か一言あるべきじゃないのか?」

「っ!?」

「……とは言え、そういうのを教えなかった……とは思わんが、アレン達にも問題があるからな」


 説明されて初めて気づき、息を呑む。だが次いで思いがけないことを言われ、グイドは悔しさに顔を赤くした。


「親父達は関係ねぇよ」

「世の中的には、子供が馬鹿をやれば年長者が悪く見られるものだ……面と向かってでなくても、あと近くにいなかったり死んだりしていても、それは変わらない。いくらお前さんが聞く耳を持たなくても、そういう大切なことはしっかり教えるべきだったんだ」


 説教だと思ったが、自分にだけではなく両親、そしてグイドの周囲の年長者達にも向けられていたのに少し驚く――何をしても、責められるのは自分だけだと思っていたからだ。


「何で……」

「お前さんが、気づいて悔しそうな顔をしたからだ。知らなかっただけなら、教える。それだけだ……さて、疲れただろう? そのままだと風呂でぶっ倒れるだろうから、まずは部屋で休むぞ」


 そう言って、デファンスが促してくるのに――グイドは何て言っていいか解らず、けれどとにかく頷いた。



 それから休んで、水分を取り。大浴場の蒸し風呂で汗を流して温まった後、部屋でパンを食べてまた休む。

 帝都の下手な店より美味しく、珍しいパンに驚き(フカフカなだけでもすごいが、ピザとも違うソースや挽肉が乗ったパンなど初めて食べた)広い風呂にも驚いた。他にも人がいるのに、ぶつかることもなくのんびり入っていられる。


「一回入ると、やめられないよな」

「あと、風呂上がりの飯もいいよな。しかも、店長が美人だし!」

「その通りっ」

「……エリは、相変わらず人気だな」

「え、ババア?」


 デファンスの呟きに、反射的に答えると――エリのことを話していたらしい男達が、途端に据わった目でグイドを睨みつけてくる。


「誰がババアだと!?」

「いや、若く見えてももう三十歳だろ? ババアじゃないか」

「俺らの店長を悪く言うな、クソガキッ」

「そうだ! むしろその年でも綺麗で、卑屈にならずに強面の俺らにも笑ってくれるんだぞ!? しかも、飯も美味い……それを年だけで貶すなんて、ガキは見る目ねぇなぁ」


 思ったままに言ったら反論され、しかも最後は鼻で笑われた。今まではなかった反応に、腹が立つ前に唖然としていると――黙って成り行きを見ていたデファンスが、たまらずと言うように笑う。


「ククッ……」

「何だよ!?」

「いや? お前さんがエリを年で貶すのなら、逆にお前さんが若さで見下されるのもありだろう?」


 悔しいが正論だ。そしてこうして一緒に風呂に入り、年齢以外の衰えのないデファンスを見ていると余計言い返せない。仲間だと思っていた者達に見放され、酒で死にかけた身としては尚更だ。


(そもそも……俺は何で、ババアをババアだって罵った?)


 そして、今更ながら振り返って気づく。

 自分の母親が、エリのことを『父を誑かした小娘』だと年齢を責めていたことを。

 父の死後、すり寄ってきた者達がエリのことを『ババア』だ『年増』だと嘲笑っていたことを。

 ……逆に言えば、そういうところやランクでしかエリに文句をつけられなかったことを。


(情けねぇ……)


 羞恥にたまらず頭をお湯に突っ込み、やがて吹っ切るように顔を上げて濡れた髪を掻き上げる。

 しかもグイドは、そんな周りの発言を鵜呑みにして馬鹿にしていた訳で――先程の男達も、言っていたではないか。年だけで見下す愚かさと、エリの持つそれ以外の美点を。


「ってか、飯だけじゃなく……冒険者としても、ババ……いや、あいつは結構、やれるのに。だけど自分を貶す奴なんかそりゃあ、見捨てるよな」

「それもそうだが多分、エリも……そしてお前さんも、本当に欲しかったのは『獅子の咆哮』じゃなかったんじゃないか?」

「えっ……?」

「考えてみろ。まあ、もし理解出来なくても明日、エリと話せば気づくだろうがな」

「は? 明日?」

「とりあえず、酒も抜けたし物も食えるから大丈夫だろう? ルーベルに頼んでおくから、それまでせいぜい悩むんだな」


 唐突にとんでもないことを言われ、グイドが固まっていると――いつもの飄々とした笑顔で、デファンスは笑った。

本日、もう一話更新しています。

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