新たなるアイテムを手にいざ出陣!
木の岡持ちも見たことはあるが、恵理としてはやはりアルミ製のイメージの方が強い。
とは言え、異世界であり中世ヨーロッパ風のティエーラでは、アルミニウムはないだろうと思っていたが――アダラに頼んでいた丼鉢とお椀を受け取りに行った時、銀白色の箱を見た時には驚いた。
「えっ、アルミ……ではないわよね?」
「アルミ? これは、メナカイトだな。軽いんで武器や防具には向かないが、錆びにくいんで部品や義肢なんかに使う。とは言え、扱いがちと難しいんでワシらドワーフ以外はあんまり使わんの」
「メナカイト……」
ローニが口にした単語を呟くと、恵理の脳裏に『チタン』という言葉が浮かんだ。異世界補正の翻訳機能が働いたらしい。
(チタン製の岡持ち……何かすごいけど、確かに軽いし錆びにくいなら良し!)
そう自分に言い聞かせて、ありがたく使わせて頂くことにした。ちなみに三段式で、銀貨十枚だそうだ。
アダラに作って貰った食器と一緒に支払い、アイテムボックスに入れて持ち帰った。そして買ったばかりの状態を長く保つ為に『目止め』を行なうことにする。
小麦粉を水で溶かしたもの(米のとぎ汁でもいいが、タイ米だとそもそもとがないので)に食器を入れて沸騰させる。そして火を止め、食器を入れた状態で冷ました後、洗って滑りを落としてから乾かした。こうしておくと、今後の水漏れなどを防いでくれるのだ。
「丼鉢と、お椀の手入れはこれで良し」
夜の厨房で呟いて、息を吐く。レアンには先に休んで貰ったので、今は恵理一人だ。
レアンに聞いていた通り、一昨日デファンスとグイドが到着したという。他人事のような言い方になるのは直接、会っていないからだ。恵理は店があるし、デファンス達も療養目的ということで冒険者ギルド内に宿泊し、大浴場に通っているらしい。何しろ帝都のギルドマスターなので、店に来た客達も噂していた。
「うちのギルマスも鍛えてると思ってたが、帝都のギルマスもあの年で腹バッキバキだったな」
「連れの兄ちゃんもな。ツラは辛気臭いが、あれはなかなか鍛えてるな」
「ああ、顔はなまっちろいけどな……おかげで、カミさん連中が色気づいちまって、まあ」
辛気臭くてなまっちろいというのは、グイドのことだろう。多分、大浴場で目撃したのだろうが、二人の腹筋情報を知ってしまったのは心の中で謝っておく。
療養というか、アルコールを抜く作業はうまくいったようだ。思えば、グイド本人は取り巻き達ほど飲んでいなかった。治療院に運ばれたのも、急性アルコール中毒だったんだろう。
「……いよいよ明日、いや、日が変わったから今日か」
そんな訳で昨日、ルーベルからグイドが普通に食事が出来る状態になったと連絡があった。
最初は二人に来て貰おうと思ったが定休日だし、ローニに作って貰った岡持ちデビューも出来るので新作どんぶりを作って持っていこうと思う。
「新作って言うか……まあ、親子丼なんだけどね」
ずっと作りたかったがてんさいの砂糖と、あと味噌汁用にひよこ豆の豆腐が手に入ったのでようやく作ることが出来る。
「作りたかったものと、思いがけず手に入った岡持ちで……いざ、出陣!」
自分を鼓舞するように呟いて、恵理はグッと拳を握った。




