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吐き出すようにして前に

グイド視点

 目を開けて、パーティーハウスではなく白い部屋にいたことにグイドは戸惑った。

 以前の治療院だと思うが、前のように薬草の匂いはしない――と言うか自分の酒臭さと、全身干からびたような渇きでそれどころではない。


「気がついたか」

「……また、あんたか……うっ……」


 声をかけられ、足元にあった椅子に腰かけていたデファンスに目をやる。咄嗟に憎まれ口を叩いたが、その声は酒やけしガサガサで。更にガンガン頭が痛んで、グイドはたまらず呻いた。そんな彼に、デファンスが呆れたように言う。


「会いたくなければ、自己管理をしっかりやれ……お前さんは、酒の飲みすぎで死にかけたんだ」

「…………は?」

「馬鹿馬鹿しいから、もう言わんよ。酒屋の爺さんに感謝するんだな。一週間毎日酒を買いに来ていたお前さんが来ないって、冒険者ギルドに知らせに来てくれたんだ」

「……説教するなら、帰ってくれ」


 デファンスの言葉を遮り、物理的にも拒むようにグイドは毛布を頭から被った。そして、相手の顔を見ないまま言う。


「ああ、冒険者であるうちは面倒見る義務があるのか? だったら、冒険者なんて辞めてやる……もう、ほっといてくれ」

「仮にもAランクの冒険者が、そんなに簡単に辞められる訳なかろうが」

「面倒臭ぇな……ババアみたいに、Bランク以下ならすぐに辞められたのに」

「エリのことか……逆に聞くがな。皆の見ている前で解雇されて、平気な顔して冒険者を続けられるのか? まあ、お前さんはエリを愛人にするつもりだったから、深くは考えてなかったんだろうがな」

「だから、説教すんなら……」

「聞け。今まで無視していた分もな」


 少し低くなった声に、グイドは渋々とだが黙った。もっとも了承したと言うより、言いたいだけ言えば帰るだろうと思ったからである。


「……まあ、お前さんからすればわしはエリ贔屓の、やかましいおっさんだろうな」

「…………」

「図星か……だが、お前さんにも期待しておったぞ? 帝都に来て二年も経たずに、Aランクになった。だからこそ、アレン亡き後パーティーのリーダーになったのに」

「俺がリーダーになれたのは、親父の遺言があったからだ。皆、知ってるくせに」

「知らん」


 言い切られたのに腹が立つが、グイドが言い返す前にデファンスが言葉を続けた。


「だが、お前さんがそう思っていて……だからこそ、儂らの話を聞かなかったのは知っておる。若い連中を取り巻きにしたのも、アレン贔屓じゃないからだろう?」

「…………」


 黙ったグイドに、今度はデファンスは「図星か」とは言わなかった。代わりに、思いがけないことを言う。


「聞きたくないなら、それでいい。だが、言いたいことを言わずに酒に溺れるのはやめろ……エリに会いに行くぞ」

「はっ!? ……っ」


 毛布の中で、ギョッとして声を上げ――再び、頭痛が襲って悶絶する。そんなグイドには構わず、デファンスが言葉を続ける。


「エリと会えば、嫌味や文句にしろお前さんも何か言うだろう? 何、儂は大浴場に入って美味い飯を食ってるから気にするな」

「ふざけんな……っ」

「そうそう、そうやって色々吐き出すんだな……治療院ここで水分を取って、馬車で移動出来るようになったら行くぞ。エリも、お前さんに言いたいことがあるようだしな」

「えっ……」

「お大事に。また、明日来るからな」


 言いたい放題言ってデファンスが出て行った後、完全に気配が消えたところでグイドはおずおずと毛布から顔を出した。


「クソ、あのおっさん……でも……」


 エリが、自分に言いたいことがあるとは――別れ際の様子から、流石に色っぽい内容だとは思わない。しかしパーティー崩壊の文句であれば、こちらとて言い分はある。


(上等だ。ギルマス公認で、あのババア泣かせてやる)


 そう心に決めたグイドを待っていたのは、酒で失った水分を補給する為の点滴だった。

本日、10/11から電子書籍でも発売です。見かけたら、何とぞよろしくお願いします。

あと感想について、活動欄に書きました。

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