離れたって傍にいる
昨日、グルナの前で再び泣いた後、言われるままに家の風呂に入り、部屋のベッドに座ってまったりしていると――レアン同様、部屋の向こうから声がした。
 
「師匠、聞きましたよ……俺、反対ですから!」
「わたしもですよ、エリさんっ」
「……反、対」
 
ティート、あるいはルーベルからでも聞いたのかサムエルとアマリア、そしてミリアムが来ていた。しかし、何と答えるべきか迷ったところで三人も黙り、やがて話しかけてきた。
 
「俺達は、言いたいこと言いましたけど」
「エリさんの決めたことには、反対しません」
「……ん」
 
レアン同様、そう言ってくれるのに――また泣きそうになって、慌てて堪える。
そして不安で声が震えそうになるのを堪えながら、恵理は口を開いた。
 
「ありがとう……でも、私はそんな風に皆に好かれるような人間じゃなくて……」
「「それは、こっちが決めますっ」」
「……そ、う」
「えっ?」
勇気を出しての告白だったが、思いがけない切り返しをされた。戸惑う恵理に、ドアの向こうのサムエル達が言う。
「師匠に助けて貰って、嬉しかった。それは、俺らの気持ちですよ」
「そうです! それにエリさん、口だけじゃなく無茶苦茶頑張ってたじゃないですか……あ、でもそうやって自分を卑下したり、色々考えすぎて一人で抱え込むのは良くないですよ?」
「えっ……いや、でも」
「逆、考えて……私達が無理したり、嫌われてるかって聞いた、ら」
「反論する。言って通じなければ、体で解らせる」
「「「えっ?」」」
「あ、抱き締めたりよ? 頭撫でたりも、するかもだけど……嫌かな?」
ミリアムに言われて、恵理は反射的に答え――確かに、大切に想っている相手にそう言われれば全力で止めると思った。
(同じように、私も想われてるってこと……か)
そんな考えが、ストンと胸に落ちる。
刹那、嬉しさや照れ臭さがじわじわ湧き上がり、全身に広がるのをくすぐったく感じて微笑んだ。
だが三人が声を上げて身構えるのに、鉄拳制裁と勘違いされたかと慌てて言い直し――今度は年下とは言え、子ども扱いされたと思われるかと心配になったが。
「……師匠~」
「エリさんらしいけど、相手によっては誤解されますよ!?」
「自分、大切、に」
「……えっと、はい」
そうしたら、むしろこちらが子供のような言い方をされて、よく解らないながらも疑問形にならないように答える。
それからいつもの、それこそパーティーにいた頃から変わらないやり取りに、今更ながらに恵理は気づいた。
(居場所が無くなったって、思ったけど……サム達、いるじゃない)
しかもいてくれるだけじゃなくて、こうして変わらず話していられる。
それは、ひどくありがたいことで――だからこそ、グイドはパーティー崩壊を聞いて泣いた自分以上に、辛かっただろうと恵理は思った。
※
そんなやり取りがあったからこそ、今の恵理は真っ直ぐにルーベルの隻眼を見て話が出来る。
「多分、私がグイドにパーティー崩壊について文句を言ったり、責めたりすると思ってるでしょうから」
「……あらぁ? むしろ、違うのぉ?」
「ええ……パーティー崩壊に関しては、私にも反省すべき点はありますから」
そこで一旦、言葉を切って恵理はニッと口の端を上げた。
「とは言え、何も言わない訳じゃないですけどね……それでも良ければどうぞ、とお伝え下さい」
「まぁ、言ったわねぇ?」
「はい」
すっかり吹っ切れたらしい恵理に、話を聞き終えたルーベルも頬に手を当ててコロコロと笑った。
 




