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従業員、フライングゲットする

成人する年齢を、十五歳から十八歳に変更しました(結婚適齢期の二十歳は変更無しです)

あと冒頭、少しだけ書き直しました。

 近くの茂みから、こちらの様子を窺い。腹の音で、その存在と空腹を訴えてきたのは――十四、五歳くらいの少年だった。

 そんな相手を、夕食に誘わずにいられるだろうか。いや、いられない(反語)。

 

「おいしい……おいしいですっ。お肉に良い匂いが絡んで、濃厚で! それを、下の白いのと食べるとまたおいしくて……俺、こんなおいしいの、初めて食べますっ」

「うんうん、ありがとう。あと一回、おかわり出来るからね」

「……っ、いいんですか!?」

「ええ。私は今、食べたし」


 流石に夜も抜きたくはなかったので、恵理も少年と一緒に夕食を取った。今夜で食べ切ってしまいそうだが、明日もとりあえずスープなどは作れるので良しとしよう。 

 食レポのような感想を口にしていた少年が皿から顔を上げ、先程は黄金色に見えた琥珀色の瞳をキラキラと輝かせて尋ねてくる(ちゃんとご飯を飲み込んでから話したのに好感を持てた)のに頷いてやる。

 刹那、髪の色と同じ銀色の『耳』が期待にピクピクと動き、同じ色のフサフサの尻尾が嬉しそうに揺れた。

 正確に言えば、少年は『人族』ではない。獣人(耳や尻尾を見る限り、犬系)の少年だ。そしてその首には、ちぎれた鎖をぶらさげた鉄の首輪がはまっている。日本でなら尖ったファッションに見えるかもしれないが、こちらではそういう流行はない。


「あの、俺、腹減らして動けなくなってた時に奴隷商人に捕まって。流石に餓死させられないと思ったらしく、汁物貰って……動けるようになったんで、逃げてきたんです」

「そう……」


 恵理の視線に気づいたのかペタンと耳を伏せ、尻尾を垂らして少年が答える。

 アスファル帝国では、奴隷制度はないが――砂漠の国・アジュールでは他国からも含めて手に入れた奴隷を、使用人にしたり兵士にしたりすると聞いたことがある。

 獣人は人より下に見られ、しかもこの少年は汚れていても解るくらい、なかなか可愛い顔をしていた。更に、鎖をちぎって脱走出来るくらいだから兵士にすることも出来るだろう。


「……あの」

「ああ、大丈夫よ? 借金のカタとかならまた考えるけど、そういう話なら引き渡したりとかはしないから」

「いえ、あの……それもありがたいんですが、そうじゃなくて」


 そこまで言って、空になった皿をそっと地面に置くと少年はひた、と恵理を見据えた。


「あの、さっきの声、聞こえてて……食堂を開くなら、俺にも手伝わせてくれませんか!?」

「えっ……」

「こんなにおいしいご飯が食べられる店なら、すぐ評判になって人手が足りなくなります! 力仕事でも、掃除でも、皿洗いでも何でもします! お金はいりませんっ……それとも、俺みたいな獣風情じゃ駄目ですか? あの、ちゃんと身奇麗にして、毛とか落ちないようにしますから!」

 

 獣風情とは、獣人を貶す悪口だ。人は、獣人を差別する。そして毛についても、耳と尻尾くらいで他は人と変わらないのに、悪口としてよく言われる。一方で、その人よりも優れた身体能力や優れた容姿を利用するくせに、だ。


(奴隷でこそないけど、安い給料でこき使ったり。娼館とかに売り払ったり……あと、冒険者とかでも一人だと、なかなか仕事回して貰えなかったりするのよね)


「ただ、まだ成人前よね? ご両親は?」

「獣人は、十五歳で大人です! あと、家族はまだ妹弟が小さいんで……俺がいなくても、問題ないですっ」


 恵理の問いに、予想していたのか少年がキッパリと答える。弟妹が何人かは解らないが、もしかしたら食い扶持を減らす為に彼は家を出たのかもしれない。

 けれど、まだ満腹じゃなかったのか再びグウゥ……と鳴ったのに真剣な表情が途端に崩れ、真っ赤になって俯いてしまった。


「……駄目よ」

「そう、ですか……」

「お金がいらないなんて、簡単に言っちゃ駄目。まあ、最初は食事と寝床くらいしか約束出来ないけど……家族に仕送りとかも、したいでしょう?」


 そうなるとタイ米を仕入れる為、国境近くで開店とのんびり思っていたが、開業計画を変更しなくてはいけない。騒ぎを起こした今、帝都で開店は無理だろうが食材の仕入れ自体は、実は国境まで行かなくても出来るのだ。


(私一人ならともかく、従業員を雇うなら少しでも早く開店しないと……そうなると『彼』に連絡を取らないとね)

 

 己の中で結論付けての恵理の言葉に、途端にパッと顔を上げ、耳が再び勢い良くピンッと立った。


「ありがとう……ございますっ」

「こちらこそ、美味しいって言ってくれてありがとう……私は、恵理よ。あなたの名前は?」

「えっ……?」

「今夜だけならともかく、これから一緒に働くんなら名前を知らないと不便だもの」


 恵理の言葉に、少年の大きな目が更に大きく見開かれる。

 そして次の瞬間、その目を三日月のように細めると――少年らしい、綺麗に澄んだ声で名乗った。


「レアン、です。エリさん、よろしくお願いします!」

「こちらこそよろしくね、レアン……さあ、おかわり食べなさい?」

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