差し出したが取り返しつかず
グイド視点
グイドが目を覚ました時にいたのは、街道ではなく白い部屋だった。薬草のような匂いがするので、治療院だろうか?
「先生、患者さんが!」
「おい……っ」
そんな彼に気づいて、紺のワンピースに白いエプロンをつけた女性が声を上げて身を翻す。
それに咄嗟に起き上がろうとしたが、次の瞬間、血の気が引くような感覚と共に目の前が真っ暗になり、グイドはたまらずその場に突っ伏した。
「目覚めたか」
「……ギルドマスター」
「お前さんは、ギーヴルと相討ちになったんだ。倒しはしたんで『たまたま』隊商の中にいた治療師が治癒魔法で癒したらしい。だから、痛みは感じないだろう? もっとも、元々が重症と言うか瀕死だったんで反動はあるらしいがな」
起き上がれないが、声でデファンスと判断する。そしてその言葉に、グイドは愕然とした。
医学の知識に加え、治癒魔法も使える治療師の治療は、死亡と損失以外は治せる故に高額だ。確かに、毒と怪我を治して貰ったのは幸運だが。
「そんな……じゃあ、報酬は!?」
「安心しろ。治療とここの入院費はお礼だからと無料で、護衛の報酬は全額支払われる。荷物は無事、帝都に運べたし……向こうも、後ろめたいだろうからな」
「…………」
デファンスの意味ありげな台詞に、グイドは眉を寄せた。
流石に魔物退治に巻き込む気満々だったとは思わないが、仮にもAランクのグイドを雇ったのは万が一を考えたのだろう。つまり、今回のように『討伐失敗』となった時、ギーヴルを倒す者として。
ただ毒を持つ魔物の為、仮に倒したとしても無傷では済まない可能性が高い。それ故に、治療師を同行させていた訳だ――確定ではない為、グイド本人には知らせずに。
「……まあ、任務完了なら違約金は発生しないよな?」
「そうだな」
「じゃあ、少し休んだら退院して冒険者ギルドに行く。見舞い、ご苦労さんだったな」
「それは良いが……」
騙されたと言うか、隠しごとをされたまま巻き込まれたのは癪に障るが、損をしないならと己を納得させる。けれどそんな彼に対して口ごもったデファンスに、先程のようにならないようソッと顔を上げた。
そのグイドの視線の先で、デファンスが淡々と言葉を続ける。
「お前さんは一週間、目を覚まさんかった」
「はぁっ!?」
「その間に……お前さんのパーティーのメンバー達は全員、脱退していった。だから『獅子の咆哮』に所属しているのは、今現在お前さん一人だけだ」
「……何だよ、それっ! ふざけるな……!?」
ありえない話にたまらず大声を上げると、再び血の気が引いてグイドは倒れた。そんな彼に、デファンスは言葉を続ける。
「お前さん、サムエルとミリアムが辞めると言った時、何もしなかっただろう?」
「何もって……何だよ、それ……」
「確かに、あいつらは上位ランクの冒険者だが……勝手に辞める、はい、そうですかじゃ示しがつかん。妨害しろとまでは言わんが、解雇するのでなければ『勝手に辞めた』旨をギルドに届けるべきだった。そうすれば、あいつらのカードにその旨が記される……どう判断するかは周り次第だがな。だが、お前さんはそうしなかった」
「それは……」
二人に見限られたことが恥ずかしく、情けなかったからだ。だが、そんなグイドにデファンスは容赦ない。
「もっとも、その届けが出せるのはメンバーが勝手に脱退してから一週間以内だ。それだけあればすぐに他の仕事を受けて更新になるし、帝都を出るのも可能だからな……それを、お前さんのメンバー達は逆手に取った。お前さんが病院で寝込んでいるうちに、逃げ出したって訳だ」
「そんな……だって、あいつらは楽したいって……」
「楽をするより、お前さんの下にいたくなかったことだな……そんな訳だから、せめて起きられるようになるまでは治療院にいろ」
そう言って、デファンスは病室を後にして――それを見計らったように、初老の医師が入ってきてグイドの診察を始めた。
現状についていけず、グイドは人形のような無表情のままそれを受ける。
そして起き上がり、歩けるようになって数日後に退院し。
冒険者ギルドに来たグイドはやはり無表情のまま、ほとんど口を開くこともなく報酬を受け取り、それで酒を買うとパーティーハウスに戻った。
……そしてゴミと家具だけで、誰もいないダイニングで一人、酒を飲み始めた。




