語る言葉と語られない気持ち
海の岩場に生える、緑や茶褐色の海藻――という言葉はこの世界にはない為、海に生えるアルガやダルスはルベル公国では『海の野菜』と称されているらしい。
アルガは乾燥させて砕き、揚げ物のアクセントに。ダルスはドレッシングをかけてサラダにしたり、パスタに入れたりするそうだ。
「つまりは青のりとわかめ、あるいは昆布みたいな……?」
トマトの時も思ったが、ルベルの食への探究心が凄すぎる。
あと、考えてみれば海があるのはこの世界ではルベル公国とニゲル国だけだ。もしかしたらそれ故に、日本と食文化が近いのかもしれない。
(もしかしたら、ニゲルだと海苔とかわかめもあるかもだけど……まずは、第一歩!)
すっかり感激した恵理は、ティートの右手を両手で握った。
「欲しい!」
それから心のままに言うと、ティートが眼鏡の奥の目を丸くする。
「どうぞ」
そして真顔になった彼がそう答えると、今度は恵理の方がパチリと瞬きをした。けれど、すぐに同様に真顔になって言う。
「あ、買うわよ? 店で使うから、義援金使っちゃ駄目だからね! ダルスはお味噌汁の具にして、アルガは……たこ焼き? お好み焼き? あ、でもソースとかつおぶしの壁が」
「……何でも言って下さいね。女神が欲しいものは、僕が頑張って揃えますから」
「ありがとう。でも、ちゃんと買うからね。すぐにくれようとしたり、逆に義援金を増やそうとするのは駄目よ?」
「そんなっ……奉納は、むしろ信者へのご褒美ですのに!?」
「その気持ちだけで十分! ありがとう。私も、少しでもティートに恩返し出来るように頑張るわね」
最初の主語のないティートの台詞は、とても意味ありげだった。
けれど、こういうやり取りは割と頻繁にある為、すっかり慣れっこになったレアンは全く動じず。恵理はそもそも気づかずに、笑って話を締め括った。
……そんな恵理に、ティートは眩しげに目を細めた。
※
「こんばんはぁ……ごめんなさい、お邪魔するわねぇ?」
そんな声と共に、店の扉を開けて入ってきたのはルーベルだった。
明かりはつけているが、時間的には閉店である。だから彼の登場に恵理は驚き、ティートとレアンは警戒からか表情を引き締めた。
「ちょっと話したいことがあるのよぉ。若旦那もいてくれて、ちょうど良かったわぁ」
「……それは、一体?」
「ルビィさん?」
レアンだけではなくティートの同席も許したのに、恵理はますます戸惑った。
単に街興しの話なら、こんな夜でなくても良いからだ。他の者に聞かせたくないなら、ルーベルの執務室に集まれば良いだけである。
そんな恵理達に、ルーベルは思いがけない話を切り出した。
「デファンスさんから連絡があったわぁ。『獅子の咆哮』が、解散……いえ、崩壊したそうよぉ。リーダーの病とメンバーの脱退が原因らしいけどぉ……それでね? 療養がてらリーダーを、ロッコ(ここ)に連れてきたいらしいのよぉ」




