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百円ショップは偉大である

 この異世界は『一見』中世ヨーロッパ風の世界だ。

 けれど伝説の勇者の影響か、魔石を使った家電もどきがある辺りが『一見』で。あとその知識を悪用されない為か、ティエーラには特許や商品登録の制度がある。


「そんな訳で、リンスもちゃんと手続き済みです」

「いつの間に」

「女神の言う通り、作り方自体は簡単ですからね。とは言え、今のところ他の商人達には作り方を公開する気はありませんが」


 閉店後に「お金はちゃんと払います。商いのことを少しまとめたくて」と言って、ティートがやって来た。

 そして、彼のまとめ方と言うのは『恵理に聞いて貰うこと』である。そう、彼女の知識を求めるのではないのと(聞きながらのツッコミで話が広がることもあるが)一人だと彼は食事を抜いたりするので、こうして食べにくるのを止めはしなかった。

 そんなティートの用意周到さに、感心しながらもふと恵理は思う。


「……商品化しなくても、使った人とかが見よう見まねで作るんじゃないかな?」


 現に日本では、料理店のメニューを家で作ったり、手作り化粧品を作ったりとあった。

 しかし、言ってから恵理はすぐに自分の考えを打ち消した。


「違うか……材料とか、器具を用意するのがそもそも手間よね」


 ハーブはともかく、調理に使う為のりんご酢をリン酢作り用に別に買うのかということ。

 あと、リン酢を作る為の容器も――ティエーラの食器や容器は基本、陶器である。そして当然だが、そちらも作るのではなく買うものだ。

 仮に用意したとしても、それらを入れた陶器は作り終わった後には使えなくなる。洗っても、料理や食材を入れるのは抵抗があるだろうからだ。そう考えるとりんご酢までいかなくても、手軽に酢や容器を揃えられる百円ショップは偉大である。


「その通りです。だから、買い手がいるんです。ヴェロニカ嬢のおかげで、ここしばらくは思っていた以上に売れていますけどね」


 その言葉通り、大浴場に入る前に店に直行してリン酢や温泉水を買う者達が増えている。どうやら、売り切れを心配しているらしい。


(うん、ヴェロニカ嬢、イメージキャラクターとして有能すぎる)


 本人は予想外だったと思う(以前の話を聞いていた限り、選ばれるとは全く思っていなかった)が、婚約者候補の一人になったと聞いている。そんな彼女をお茶会で見た令嬢達が、使用人に頼んで買いに来させているのだろう。

 そして最初は無料馬車で来ていたが、近頃は週一では足りないのか自分の馬や馬車で訪れる者達もいる――それらが、示すことはと言うと。


「富裕層の皆様が、普段使いをしている訳ね」


 だからこそ、何度も使用人達がロッコに来ていると思われる。まあ、そんなに高い値段では売っていないので気持ちは解るが。

 とは言え元々、悪くなっても困るのでリン酢は数回分を、小さな瓶に入れて売っている。

 近隣の者達なら、大浴場に来て入浴代でリン酢も使うので小瓶でも足りるだろうが――令嬢では帝都から来るのも、大浴場に入るのも無理がある。どちらともしたヴェロニカが特殊なのだ。

 話が逸れたが、そんな訳で使用人らしき男達がロッコに来ている。

 とは言え、買い物が終わったら大浴場に向かったり、恵理達の店に食べに来たりしている。まあ、そういう『ご褒美』がなければ同じ顔を週に二度、下手すると三度見ることはないだろう。

 そんなことを恵理が考えていると、ラグー丼を食べ終わり口元を紙ナプキンで拭いたティートが、ふと思いついたように呟いた。


「ああ、でも最近は『おろし金』も売れていますね」

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