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新たなる商品と敬称について

 これは、すき焼き丼を皆で食べた時の余談である。

 リン酢を使ったヴェロニカの金髪は、見事にサラサラツヤツヤになった。更に、ハーブによる良い香りまでする。


「家で使った時も、すごいと思いましたが……今は、それ以上です」

「あ、多分、ここの温泉のおかげだと思うわ。アルカリ性だと逆にゴワゴワになるから、注意しないとだけどね」


 石鹸を使ってアルカリ性に傾いた髪に、酸性のリン酢を使って中和するのと同じ理屈だ。肌がツルツルになるのはアルカリ性だが、髪に良いのは酸性の温泉なのである。


「だとしたらリン酢だけじゃなく、温泉のお湯を使ったら髪がより綺麗になるんですか?」

「っ!」


 ヴェロニカと恵理の話を聞いていたレアンが、ふと気づいたように呟いて小首を傾げる。それに、ティートとヴェロニカがカッと目を見開いた。


「お嬢様、もしよければなのですが……温泉水を帝都に持っていって、洗髪に使ってみて頂けませんか?」

「あら、奇遇ですこと……わたくしも、同じことを考えておりました」


 顔を見合わせ、口々にそう言って頷く。

 護衛付きの馬車の話が出た時も思ったが、ヴェロニカとティートはロッコの街興しに対しての発想が似ている。

 とは言え、目的は少し違う。ヴェロニカは領民であるロッコの民の為、そしてティートは。


「反響があれば、また『女神義援金』が増え」

「待って。どうしてそうなるの? 私は別に、温泉の持ち主じゃないわよ?」


 それはむしろ、ルーベルの権利だと思う(領主であるヴェロニカの父が、管理を任せているので)。しかしティートは、恵理の主張ににっこり笑って言う。


「女神の知識には、それだけの価値があるのですよ」

「ありがとう。でも、今回のお湯まで利益に結びつけるのはどうかしら? そもそも、ロッコだと無料で使える温泉のお湯よ?」


 そう、それこそ恵理の家のお風呂も温泉を利用している。けれど、そこで何故かヴェロニカから待ったが入った。


「エリ様、ここに定期的に来られる方は良いですが、今回のリンスは帝都の富裕層が飛びつくと思われます。そうなると本人が来るより、使用人などに買いに来させると思うので……下手に無料と言うより、商品にして数を把握した方が良いと思いますわ」

「……えっと、言い分は解ったけど、私に様付けは必要ないわよ」

「そんなっ!?」

「えっ?」


 しっかりした発言にはごもっともと言うしかないが、仮にも侯爵家の令嬢に様付けさせる訳にはいかない。だが、何故か驚かれてこちらの方が驚いてしまう。


「お姉様の先生なんですから、様付けじゃないのなら……エリ先生、でしょうか?」

「あの、お気持ちだけで」

「呼ばせてやって下さいよ。お嬢の、感謝の気持ちの表れですから」

「いいじゃないですか、師匠」

「そうですよ、店長」

「流石です、女神」

「エリ様、諦めて」

「……どうぞ、お好きに」


 真顔で言われるのにやんわりと断ろうとしたが、護衛のヘルバや他の面々にまでそう言われてしまい――恵理としては肩を落とし、そう返事をするしかなかった。



ヴェロニカ視点


 帝都に戻ったヴェロニカは、アイテムボックスで持ち帰ったリンスと温泉水で髪を洗い、二週間後の皇宮でのお茶会に臨んだ。

 異国の宝玉や美しい布でのドレスに身を包んだ辺境伯令嬢もだが、ヴェロニカの艶やかに輝く金髪もやはり目を惹いた。

 しかも異国の希少な品とは違い、リンスや温泉水は帝都ではないにしろ、アスファル帝国領内で手に入るのである。その為、ヴェロニカは他の令嬢達に取り囲まれたのだが。


「髪が、そんなに美しくなるなんて……」

「本当に、その商品で洗うだけで?」

「素晴らしいですわ……帝都に取り寄せて、販売するつもりはありませんの?」

「いずれは……ですが今は、まず街の繁栄が優先ですの。週に一度、護衛付きの無料馬車が出ていますのでご利用頂ければ」


 そう言って、扇で口元を隠しつつヴェロニカは微笑んだ。

 自分や父にすり寄る者には威嚇や威圧で応じるが、今回はロッコの街の宣伝と思っているので愛想良く振る舞っている。そう、普段『アルスワード家のいばら』と称されている彼女とは別人かと疑うくらいに。


 ……流石に、一度のお茶会だけで婚約者は決まらない。

 けれど、この時の微笑みと領地に対しての語り口により婚約者候補の一人に選ばれ、ヴェロニカが動揺したのもまた余談である。

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