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思わぬところで儲けていました

 ティートとレアンにも風呂に入ることを勧めたが、先に報告をしたいとのことで恵理と一緒に店に連れてきた。

 ちなみに、ヴェロニカの護衛であるヘルバは大浴場に行っている。気を使ってくれたのか、単に温まりたかったのかは無害にも腹黒にも見える糸目のせいで謎である。


「実は今回、レアンさんの交渉がどれくらいかかるか解らなかったので、僕達も往復の休息は取りつつも一晩までは泊らなかったんです。おかげで、こうして一週間くらいで戻って来られました」

「大変だったでしょう……後で、ちゃんとお風呂入って休みなさいね?」

「ありがとうございます、女神……でも、レアンさんのおかげで無事、話はつきました」

「里の長老達の前で、しびれ芋と泥カブを使ってこんにゃくと砂糖を作りました……皆からは、魔法だって言われました」


 そう言って、レアンは持たせていたアイテムボックスからいくつかの容器を取り出した。見ると中には、丸いこんにゃくと糸こんにゃく、あと茶色い砂糖の塊が数個入っている。


(確かに木灰を入れて固まるこんにゃくとか、同じく木灰を入れて煮た甜菜の上澄みから出来る砂糖って、知らないと魔法としか思えないわよね)


 そうして出来上がった砂糖を一かけ舐めてみると、上白糖ほどではないが十分甘いし、思った以上に青臭くなくてホッとする。木灰で分離もされるが、それだけだと上澄みにまだえぐみが残るらしい。その為、更に灰汁を取りながら煮詰めて貰ったので料理に使う分には問題ない味だ。

 里にはレアンしか入れないので、グルナに作り方を聞いて獣人の里で実演して貰った。

 その上で、帝都より南では見かけないそれらを里で栽培してほしいこと。そして、定期的に売ってほしいことをお願いして貰ったのである。


「でも、ティートさんの持っていってくれた日用品の効果も大きかったですよ。おかげで月一回、商品を売りがてら近くまで来てくれたら、里の者達が対応することになりましたから」

「ありがとう! ただ、今あるものを採りきっちゃうと困るから、今回買った後はしばらく畑を管理して貰う分の賃金しか払えないけど……それぞれ、育つまで時間がかかるしね。特にこんにゃく芋は、二年はかかるらしいの」

「むしろ、畑の管理費が定期的に貰えるのかって驚かれましたよ、店長」

「『女神義援金』から支払うので、ご安心下さい。あと、里の方々から山で取れた獣なども商会で買い取れないかと申し出があったので……商会としても、新しい取引先が出来て嬉しいですよ」


 思った通り、いや、思った以上の結果が出たのに恵理はお礼を言った。と、そこでティートが眼鏡の奥の瞳をつ、と細める。


「とは言え、この砂糖とこんにゃくが商品化出来たら今回、出た分は取り戻せますね」

「……えっ? だってこれ、グルナのアイデアよ?」

「彼は『おろし金』のアイデア料だけで、十分だそうです。こんにゃくは、確かに糸こんにゃくの方が麺のように食べられそうですが『天突き』は『おろし金』ほどは使わなそうですね」


 そう、日本では当たり前だった『おろし金』と、ところてんや糸こんにゃくを作る『天突き』はこの異世界にはない。

 ないのだが、グルナは何故か両方持っていた。何でもロッコの鍛冶職人に頼んで、色々作って貰ったらしい。おかげでレアンの助けにはなったが、準備が良いと言うか何と言うか。

 そして、そんな便利な調理器具を商人であるティートが見逃す訳はない。

 商品化するとは聞いていたが、その話が巡り巡って自分の収入追加に繋がるとは思ってもいなかった。


「あと元々、リンスの売り上げの一部は女神のものですが……ヴェロニカ嬢が帝都での宣伝を引き受けてくれたので、帝都との護衛付き馬車を用意してもすぐに元が取れますね」

「え、ちょっと、聞いてない」

「良かったですね、ティートさん!」


 確かにリンスは自分のアイデアだが、その売り上げまで一部とは言え『女神義援金』に追加されているとは。

 熱っぽく語っていたティートがうっとりと微笑むのに、レアンは素直に喜んで尻尾を振り、当の恵理は頭を抱えるしかなかった。



 砂糖もだがこんにゃくは畑に植え、収穫出来た後に商品化を考えることにしよう。

 とは言え、せっかくレアンが説明の為に作ってくれたので砂糖と糸こんにゃく、あと恵理が作っていたひよこ豆の豆腐を使ってどんぶりを作ることにしよう。


(ちょうど、珍しい牛肉もあるし)


 牛は牛乳や、それから作られる乳製品の方が需要があるので、肉はあまり市場に出てこない。

 それこそ、富裕層でもなかなか口に入らないと思うが――少し前に、近隣の村の魔物退治を手配したルーベルにお礼として献上されたものをおすそ分けに貰ったのだ。


(メニュー化するなら、北海道風の豚肉にしようと思うけど)


 などと思いながら、魚醤に水と白ワイン(タイ米では日本酒までは難しいので、せめて日本酒っぽい味のものにした)そして甜菜砂糖を入れて、割り下もどきを作る。

 そしてリーク(西洋ねぎ)を鍋でさっと焼いた後、割り下もどきを回しかけ、糸こんにゃくと豆腐を入れて煮込んだ。それから最後に牛肉を入れて、火が通ったところで他の具材と共に炊いたタイ米の上に乗せた。

 ……そう、すき焼き丼の完成である。

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