姉妹の再会と思わぬ展開
ミリアムに、異母妹がいるのは聞いていた。
しかし、家族の詳しい話を彼女がすることはなく――それ故、恵理もまた踏み込んで聞くことはなかったのだが。
(フランス人形みたいに、綺麗なんだけど……合法ロリのミリアムより年上に見えるのもだけど何か、目力が強いせい? 縦ロールのせいもあって、童話とかゲームのライバルキャラ的と言うか)
ついミリアムとの確執を勘ぐってしまったが、恵理は慌ててそれを振り払う。一回りも下の女の子相手に、自分は何を考えているのか。
「……失礼しました。わたくしは」
「あぁ、侯爵令嬢のヴェロニカ様でしょう?」
そんな恵理の視線の先で椅子から立ち上がり、ドレスの裾を摘まんで頭を下げようとしたヴェロニカの言葉をルーベルが制す。
「こちらこそ、お待たせして失礼したわぁ。でも、先触れも無かったのだからおあいこよねぇ?」
「えっ……」
そして、微笑みながらやんわりと嫌味で返したルーベルに、ヴェロニカが声を上げる。けれど、すぐに扇で口元を隠すと。
「ええ、おあいこで。それでは、本題に入らせて頂いても?」
「……まぁ、何かしらぁ?」
目を笑みに細めての言葉なのに無茶苦茶、彼女から圧を感じるのは何故だろう? そして嫌味に動じず、逆に謝罪せずに話を進めようとするヴェロニカに、ルーベルが再び笑いながら青筋を立てる。
(えっ? お嬢様逆ギレ? ってか、怖っ!)
目の前でくり広げられるやり取りに焦った恵理だったが、それはミリアムに手を握られたサムエルも同様らしい。空気を読んでか口を開くことこそなかったが「助けて、師匠っ!」と涙目で訴えてくる。Aランクの筈だが、女?の戦いとなると勝手が違うらしい。
「……ニカ」
「っ!?」
ギュウッと恵理とサムエルの手を強く握り、ミリアムが口を開く。愛称だったことにも驚いたが、続けられた言葉に頭がついていかず困惑する。
「メッ」
「お姉、様……」
「『気高く美しい』は、いい。でも、見苦しく言い訳するのと、勘違いされたのに訂正しないの、は違う」
「……っ!」
ミリアムの言葉に、ヴェロニカがハッと目を見張って俯く。
勘違いとは一体、どういうことなのか――恵理とサムエル、そしてルーベルの視線が集中したところで、部屋の扉がノックされた。
「ギルドマスター!」
「なぁに? どうしたのぉ?」
「あの……ティート様とレアンさんと一緒にアルスワード家の使者の、先触れの方がっ」
「……何ですって?」
扉の向こうからの受付嬢の言葉に、一同の視線が今度はヴェロニカへと移動した。
※
大浴場への無料馬車は、帝都からは出ていない。確かに夜通し馬車を走らせれば翌日の昼までに着くが、治安(獣や魔物、盗賊など)を考えるとどうしても手前の大きな街で一泊を挟む。それだと、ロッコに向かう客以外の者(つまり、手前の街で降りる者)も乗ろうとして、収拾が着かなくなりそうなので未だ実現していない。
……そしてそれは、今回の先触れの使者の場合も当てはまる。
恵理は知らなかったが、帝都では内々ではあるが皇太子の婚約者選定が始まったらしい。そんな婚約者候補の一人として、ヴェロニカも選ばれたらしいが――それを聞いた途端、ここロッコに来ると言い出して先触れの使者を手配し、その後自分も護衛付きの馬車で出発した。
つまり、使者は危険に巻き込まれては困る(何せ、侯爵家令嬢からの依頼だ)ので一泊を挟み、早朝に出発した。
そしてヴェロニカの乗った馬車は、彼女の命令により護衛が夜通し馬車を走らせた。
更に不運なことに、使者の乗っていた馬が怪我をしたらしい。手当ての為に道から外れたので、ヴェロニカの馬車は気づかず追い越してしまった。
そして手当てをしても動けず、困り果てた使者が予定より早く戻ってきたティート達の馬車に助けを求めたので、事態が発覚し誤解が解けた訳である。
「申し訳、ございませんでした」
「いえ……こっちこそ、悪かったわ。ごめんなさいねぇ」
「いや、本当、ウチのお嬢が悪かったんで……それを自覚して欲しかったとは言え、黙ってた俺も悪かったんで」
謝り合うヴェロニカかルーベルにそう言って頭を下げたのは、ヴェロニカの後ろに控えて今まで黙っていた護衛の男だった。




