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令嬢襲来と、先触れについて

 その日、ロッコの街に無料馬車とは違う、豪奢な馬車が到着した。

 馬車は街の入り口では停まらず、真っ直広場へとやって来る。そして冒険者ギルドの前で停まると、御者が扉を開けて足台を用意した。

 その足台を使って降りてきたのは、鮮やかな真紅のドレスに身を包んだ令嬢だった。年の頃は十四、五歳くらいだろうか? 目尻の吊り上がった紫の瞳。金髪の縦ロールを揺らしながら一歩、また一歩と前に進む。


「着きましたよ、お嬢様」


 御者をしていた茶髪に糸目の男は、腰に剣を佩いているところを見ると護衛も兼ねているらしい。令嬢の前に進むとそう声をかけ、ギルドの扉を開けて彼女を中へと促した。


「わたくしは、アルスワード侯爵家の娘・ヴェロニカ……ギルドマスターは、いらっしゃるかしら?」


 そして、居合わせた冒険者達からの視線が集中する中、取り出した扇で口元を隠して少女はそう問いかけた。



「侯爵令嬢が、先触れも寄こさずに、ねぇ……イイ度胸じゃなぁい?」


 受付嬢から状況を聞いたルーベルが、微笑みながらも青筋を立てる。

 冒険者でAランク以上は準貴族扱いで、ギルドマスターになれるのはAランク以上だ。つまり、ルーベルも準貴族なのである。

 準貴族は貴族と平民の中間の存在で、家名や場合によって領地を与えられるが爵位の無い、言わば名誉職だ。だから上位貴族の中には、貴族間での礼儀である先触れを準貴族に行なわない者もいる。


「バーン様は……侯爵様は、こんなアタシにもちゃんと礼儀を通してくれていたの。そうやって築かれたアタシ達の信頼関係を、お嬢ちゃんはぶち壊してくれた訳」


 侮られたと怒ったのか。しかし、恵理の知るルーベルはそんな浅慮な人物ではない。

 そんな疑問が視線に出ていたのか、ルーベルが一つため息をついて恵理に答える。成程、それならルーベルも不愉快になるだろう。


「とは言え、いつまでもぼやいてられないしぃ……ちょっと、行ってくるわねぇ」

「あっ……」

「……待っ、て」


 つい声をかけたが、一緒に行ったところで貴族とルーベルとのやり取りに口を挟むことなど出来ない。

 けれど、撤回する前に思わぬ声が割り込んできた。


「私に……異母妹いもうとと、話をさせて」


 無口と言うより、喋ること自体が苦手なのだが――それでも、彼女なりに一生懸命言葉を紡いだのはミリアムだった。



「お待たせしたわねぇ、アタシがギルドマスターのルーベルよぉ」


 部屋の扉を開けながらそう言ったルーベルに、来客用の椅子に腰掛けていた少女が軽く目を見張る。

 初めて会う相手にも、ルーベルは口調を変えない。相手を量るのに効果的だと以前、笑っていられたこともあるが――表情に驚きこそあるが、嫌悪や侮蔑がない辺りは及第点というべきか。


「……お姉様?」


 いや、ルーベルもだが異母姉であるミリアムの登場に、それどころではなかったかもしれない。


「久し、ぶり」


 一人では不安だからと、恵理とサムエルにそれぞれ右手と左手を繋がせて、ミリアムがそう答えた。

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