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女子供ならではの戦い方

 子供と言うのを差し引いても、恵理はこの世界ではとても小柄で非力だった。

 本来なら、冒険者であるアレンに同行するべきではないのだろうが――訓練はしているが、未だ魔力自体がない恵理には家電ならぬ魔道具が使えない。万が一、それを誰かに見られたらと思うと、宿に一人でいることも出来ないのだ。


(アレンが言う通り、異世界人として帝都で保護されれば……でも)


 そこまで考えて、恵理はこっそりため息をついた。どうしても、保護と同等の知識や技術を返せる気がしない。だが、アレンに迷惑をかけているのは事実で――。


「エリ」


 いつしか俯いていると、アレンに名前を呼ばれた。それに顔を上げた途端、ツンッと眉間をつつかれる。


「眉間のシワなんて、子供がするもんじゃないぞ?」

「アレン……」


 出会ったばかりの頃、色々と衝撃が大きすぎて敬語を使えず今に至るが――せめて名前に『さん』をつけようとしても、当のアレンに「子供が余計な気使うなって!」とう笑い飛ばされた。脳筋故に体育会系かと思ったが、もっと大らかと言うか単純明快らしい。


「それにしてもお前、体力あるよな。疲れたのかと思ったが、息も切れてない」

「……そう言えば」


 言われて気づくのも何だが、確かにこうして森の中を歩いていてもほとんど疲れていない。腕力に変化がないので自覚はなかったが、言語能力同様に体力にも異世界補正があるのだろうか?


「お前さえ良ければ、冒険者になれるよう鍛えるか? 犯罪歴がなければ出自は問わないし、魔法も必須じゃない。魔力は持っていても、それを魔法として使えるのは一部の人間だけだ」

「そうなの?」


 アレンが魔物を倒すのに、魔法を使っていたので魔法は必ず使えなくてはいけないと思っていた。

 驚いて目を見張る恵理に、今更ながらに自分が勘違いさせていたことに気づいたのか、アレンが気まずげに頬を掻く。


「まあ、とにかく! 薬草採取や清掃作業なら、子供でも出来るから十二歳から登録も出来るし! ただ、最低限は自分の身を守れた方がいいから、まずは仕事の合間に鍛えよう!」

「ありがたいけど……いいの? 体力はあるみたいだけど私、力とかないよ?」

「駄目なら、そもそも言わないって! それに、女子供ならではの戦い方ってのあるからな」


 そう言って、頭を撫でられるのに――そして、一人思い悩んでいたことが解決するかもしれないと解ったことに、恵理は我知らず頬を緩めた。



「師匠! 実践モードでお願いしますっ」

「解ったわ。ただし、魔法は使わないわよ?」

「はいっ」


 昨日、事前にルーベルに冒険者ギルドの訓練場を借りられるか聞きに言ったら、ちょうど居合わせたサムエルが文字通り飛びついてきた。そんな訳で、一人で筋トレでもしようと思ったが、こうして打ち合いをすることになったのである。

 流石に真剣は使わず、訓練用の木剣を手に一礼する。

 それから一気にサムエルへと駆け寄って、切っ先で相手の喉を突こうとすると――サムエルが、自分の木剣を立てて受け止めた。


(うん、振り払ったら胸や腹ががら空きになるから正解)


 だが、そう思いながらも恵理は動きを止めない。木剣の切っ先を少しずらし、上体を倒す代わりに右脚を振り上げてサムエルに回し蹴りを入れようとした。

 今度はサムエルは木剣や体で受けるのではなく、一旦後方へと下がってから木剣を下から上へと振り上げようとした。体勢を立て直してからの攻撃も、良い判断だ。

 ……だが、恵理は体を回転させることでサムエルの剣先を避け。

 逆にすぐ横に降りつつ、引き寄せた脚を突き出して――サムエルの脇腹を、思い切り蹴り飛ばした。

 そして、倒れたサムエルの喉元に木剣の切っ先を突きつける。

 この戦い方は剣術の『試合』ならアウトだろうが元々、実践モードと話していたのでこれはれっきとした一本であり勝利だ。


「あらぁ、相変わらずキレッキレねぇ」

「……ん。エリ様、流石」

「って、ギルマス!?」

「飯屋の店長が、何であんなに強いんですか!? サムエルって、Aランクですよねっ!?」


 のんびりと二人の攻防を眺めているルーベルとミリアムに、他の冒険者達が突っ込みを入れる。それに、ルーべルがしばし考えるように頬に手を添えて。


「何でって、ねぇ……あの子に言わせると「腕力がないから他で補わないと」ってことらしいわよぉ……あんた達ぃ? 見た目とかランクで侮ると、痛い目見るわよぉ?」

「「「……っ!」」」


 やんわりと嗜めるルーベルに、思い当たる節があった面々がコクコクと頷く。


(ルビィさん、アレを教えたくて私が訓練場使うの許可したわね)


 確かに偏見を持って対峙すると、思わぬ返り討ちにあって最悪、命を落とす。

 恵理としては、アレンの言った『女子供ならではの戦い』を自分なりに模索した結果のスピードや、勢いや体重をかけて威力を増した蹴りだ。昔、映画で見たカンフーアクションのようなジャンプを駆使すると、下手するとスタミナ切れを起こすだろう。けれど、体力お化け状態の恵理なら問題ないのである。


(まあ、逆に舐めてかかられる方がもっと早く勝負着くんだけど……サムエルは、私との戦いに慣れてるからなぁ)


 サムエルも十二歳で冒険者デビューしたし、昔は小柄だったので最初は恵理の戦い方を教えたのだ。今では身長も伸び、体の厚みも増したのでスピードよりパワーを重視するようになったが、別タイプの戦い方を理解しているのは強みだと思う。


「ギルドマスター、失礼しますっ」


 時の流れにしみじみしていた恵理を我に返したのは、受付嬢の切羽詰まった声だった。

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